著者
川村 隆一 植田 宏昭 松浦 知徳 飯塚 聡 松浦 知徳 飯塚 聡 植田 宏昭
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

大気海洋結合モデルならびに衛星リモートセンシングデータ等の観測データを併用して、夏季モンスーンのオンセット変動機構の重要な鍵となる大気海洋相互作用及び大気陸面相互作用のプロセスを調査した。標高改変実験からは亜熱帯前線帯の維持のメカニズム、植生改変実験からは降水量の集中化と大気海洋相互作用の重要性が新たに見出された。また、オンセット現象と雷活動との相互関係、夏季東アジモンスーン降雨帯の強化をもたらす台風の遠隔強制やモンスーン間のテレコネクションのプロセスも明らかになった。
著者
大橋 喜隆 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.541-554, 2007-06-30
参考文献数
15
被引用文献数
1

1996年から2004年の夏季に北陸地方でフェーン現象が発現した日を抽出し,中部地方を対象にフェーンとその状況下で形成される熱的局地循環の傾向と, GPS可降水量変動について考察した. GPS可降水量分布は,北陸地方の東部ではフェーンによる大気下層の乾燥傾向を反映するが,西部では太平洋側と同様に高い値を示した.フェーンが発現するような一般風が強い環境であっても,中部山岳域に熱的低気圧が形成される場合には北陸地方で日中に海風や谷風が生じ,フェーンの中断または弱化(フェーンブレイク)が生じる.熱的局地循環に伴うGPS可降水量の日変化は,夏季静穏日と同様にフェーン発現日においても夕方に中部山岳域で極大を示した.北陸地方沿岸域の中で日中にフェーンブレイクが見られる地域では,夕方にGPS可降水量の増加が顕著であり,フェーンに伴う南風と海風の間で水蒸気収束が発生していると考えられる.夜間にはGPS可降水量の高い領域が山岳風下側の新潟県の平野部へ移動する傾向が見られ,熱的局地循環によって山岳上空に輸送された水蒸気が,フェーンをもたらす南から南南西の一般風によって風下側へ輸送されたと考えられる.フェーンブレイクが生じていない事例では太平洋沿岸の可降水量が高く,中部山岳の風上斜面で降水頻度が高くなっており,熱的低気圧も形成されなかった.
著者
川村 隆一
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究課題はエルニーニョ南方振動(ENSO)現象がどのようなメカニズムで夏季アジアモンスーンの変動に影響を与えるのかを解明することを主たる目的としている。本研究課題の成果は以下の二つの項目にまとめられる。1.ENSO赤道対称・非対称インパクトとアジアモンスーン循環南アジア夏季モンスーン変動とENSOを関係づけるプロセスとして、ENSO発達期の赤道対称インパクトと衰退期の赤道非対称インパクトが存在することが観測・モデルの解析から見出された。1970年代後半以降、長周期ENSOが頻繁に出現し春季に終息しないで持続傾向になったことで、冬季から春季にかけてインド洋にENSOシグナルが伝わり、海面水温と積雲対流活動の赤道非対称構造を生成するのを容易にさせた。このような非対称構造が維持されるためには、風-蒸発-海面水温(WES)フィードバックが重要な働きをしていると考えられる。この赤道非対称インパクトは中央アジア地域の陸面水文過程も関係する間接的なインパクトで、モンスーン循環へ与える影響はモンスーン前期(6-7月)において有意である。別の解析結果から、二年周期的なENSOが発達する8月から11月にかけて、熱帯インド洋上の対流圏下層循環と降水量偏差に顕著な赤道対称構造がみられることがわかった。これはインド洋から西部太平洋へ東進するウォーカー循環偏差の一部をなすものであり、このようなインパクト(空間構造から赤道対称インパクトと呼ぶ)の実態は、準二年周期的なENSOの大気海洋結合システムが熱帯インド洋から太平洋へ発達しながら東進する過程において形成される、赤道対称構造であると解釈できる。赤道対称インパクトはむしろモンスーン後期(8-9月)に顕著である。準二年周期的なENSOの発達期にみられる赤道対称インパクトが1970年代後半以前の強いENSO-モンスーン関係をもたらしていると考えられる。2.日本を含む東アジア夏季の天候に影響を与える力学プロセス日本の夏季天候との関係に注目すると、赤道対称インパクトが明瞭であった1960年代から70年代中頃までの期間では、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化は不明瞭で典型的なPJパターンもあまり卓越しなかった。その結果、日本の夏季気温変動の振幅は小さく比較的安定した夏が続いた。逆に1970年代後半から90年代にかけての長周期ENSOの卓越により、ENSO衰退期の赤道非対称インパクトが顕在化し、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化とPJパターンの励起が頻繁にみられるようになった。これにより日本の夏季気温変動の振幅は大きくなり不安定な夏が続いたと解釈できる。最近では1999年から2001年まで3年連続で猛暑の年が続いたが、春季から夏季のインド洋・西太平洋の大気・海洋の状態はKawamura et al.(2001b)の模式図と非常に類似しており、赤道非対称インパクトの卓越と関連してフィリピン付近で積雲対流活動が活発化した、まさに典型例であると言える。