著者
川瀬 隆千
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.77-90, 2004

学生のボランティア活動が盛んだが,「組織内部の運営上の問題」や「地域(外部)との連携の問題」などの課題も指摘されている。本論は,コミュニティ心理学の観点から,筆者自身が顧問を務める「学生ボランティア部」(学ボラ)の活動を検討し,学ボラにおける工夫を取り上げることによって,学生のボランティア活動を支援する方策を考えるものである。学ボラのミーティングに注目し,その組織運営の方法を検討する。ミーティングはケースの検討が目的だが,問題を解決するために,メンバー全員が知恵を出し合うことにより,円滑に運営されている。円滑な運営が可能なのは,ケース情報や少年イメージ,担当者の悩みなどをメンバー全員が共有し,知識や経験を蓄積するシステムを持つためである。学ボラにおいては,ケース検討会や合宿,歓迎会や送別会など,さまざまなコミュニケーションの場を,半ばイベント化して用意することによって,宮崎家庭・少年友の会や宮崎家庭裁判所との連携を保持している。友の会や家裁の十分なバックアップがなければ学ボラ活動は滞ってしまう。連携は活動継続のためにも欠かせない。さらに,継続的にボランティア活動を展開するには,顧問が適切な役割を果たさなければならない。本論では,顧問の役割を,スーパーバイザー,地域連携の媒介者,参加型理論構治安の3つの観点から検討する。
著者
田中 宏明 辻 利則 川瀬 隆千 竹野 茂
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.193-221, 2006

なぜ国際関係論を教育するかという問いに対してカントのコスモポリタニズムから回答できる。なぜならば、カントのみが戦争と平和、コスモポリタン秩序、そして世界市民教育ということを国際関係論において教育する理由をトータルに考える糸口を提供するからである。最初に、国際関係論におけるカント的伝統を否定的に規定している英国学派と、カントの平和論を肯定的に捉えそれに依拠するリベラリズムの代表的研究としてデモクラティック・ピース論を取り上げる。次に、カントのコスモポリタニズムについての理解を深めるために、国際関係論の議論の枠組みを越えて寺田俊郎らの哲学者の議論を踏まえ、カントのコスモポリタニズムについて考察する。ユルゲン・ハーバーマスによると、カントの平和連合の構想にいかなる問題があるか、そして現代のグローバルな情勢を踏まえて、カントのコスモポリタン秩序はいかに改めるべきかが明らかになる。さらに、カントのコスモポリタニズムの観点から、英国学派とデモクラティック・ピース論におけるカントのコスモポリタニズムの捉え方を批判する。最後に、世界市民教育とはどのようなものなのかをマーサ・ヌスバウムに依拠して考え、世界市民教育の立場から、国際理解教育とグローバル教育を批判的に検討する。
著者
川瀬 隆千 Takayuki KAWASE
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.39-57, 2003-03-20

雇用・能力開発機構「ポリテクセンター宮崎」にて,再就職のための準備をしている失業中の人たち257人(男性119人,女性102人,性別不明36人,平均年齢37.49歳)を対象に,感情の社会的共有とソーシャル・サポートが精神的健康に及ぼす影響について調査した。GHQ30を用いて測定された対象者の精神的健康度の平均は6.59,標準偏差は5.62であり,従来のサンプルに比べて特に低いことはなかったが, GHQ30得点が7点以上(不健康範囲)である対象者は男女とも45%を超えており,失業は精神的健康にとって大きな脅威であることが示された。失業に伴って経験される感情とその社会的共有行動について尋ね,それらと精神的健康度との関連を検討した結果,悲観的で不安を感じている人ほど精神的健康度が低いことが示された(r=.414, p<.001, Af=245)。さらに,経験された感情,感情の社会的共有と精神的健康度との関連を検討した結果,悲観・不安の感情経験に比べて,その社会的共有が少ないほど,GHQ30得点が高かった(r=.217,p<.001,N=245)。悲観的で不安を感じていても,それを他者に語ることができないと,精神的に不健康な状態になりやすいといえる。対象者が身の回りの人々からどのような支援(ソーシャル・サポート)を受けているかを検討したところ,情緒的な支援の多くは友人から提供されており,金銭的な援助は両親から提供されていた。一方,情報提供などの役割が期待される職安職員やポリテクセンター職員から情報的な援助を受けているとした対象者は少なかった.ソーシヤル・サポートの有無と精神的健康の間には有意な差は認められなかったが,職安職員やポリテクセンター職員など専門家による的確なサポートの必要性が示唆された。
著者
野﨑 秀正 川瀬 隆千 立元 真 後藤 大士 岩切 祥子 坂邉 夕子 岡本 憲和 Hidemasa NOSAKI Takayuki KAWASE Sin TATSUMOTO Hiroshi GOTO Shoko IWAKIRI Yuko SAKABE Norikazu OKAMOTO 宮崎公立大学人文学部 宮崎公立大学人文学部 宮崎大学 都城新生病院 いわきりこころのクリニック 細見クリニック カリタスの園 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities Miyazaki University Miyakonojo Shinsei Hospital Iwakiri Mental Care Clinic Hosomi Clinic
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.105-120, 2021-03-10

本研究では、子育て支援サービスを提供する公的相談機関に対する母親の援助要請に焦点を当て、母親の育児に対する感情(育児感情)と信念(母性愛信奉)が、援助要請態度を媒介して援助要請意図に影響を及ぼす一連のプロセスを示した仮説モデルを検証することを目的とした。宮崎市内及びその近郊にて就学前の幼児(3 歳以上)の育児に携わる母親1000名に調査協力を依頼した。質問紙が返送され、かつ回答に不備のなかった470 名の回答を分析対象とした。仮説モデルに従い共分散構造分析を行った結果、育児感情及び母性愛信奉から3 つの援助要請態度を媒介して援助要請意図に影響を及ぼすいくつかのプロセスが明らかになった。このうち、利益とコストの態度を媒介したプロセスについては、いずれも子どもにとっての利益とコストを媒介したパスが有意であり、母親自身にとっての利益とコストの態度を媒介したパスはいずれも有意ではなかった。これらの結果より、子育ての悩みに関する母親の公的相談機関に対する援助要請については、母親の精神状態の解決に動機づけられているというよりも、その原因となっている子どもの問題を解決させることに動機づけられていることが明らかになった。こうした結果は、公的相談機関に対する母親の援助要請促進を促すには、援助要請が子どもにもたらすポジティブな影響を強調することや子どもと担当職員間の良好な関係づくりなど、子どもに焦点を当てたアプローチが有効になることを示唆した。
著者
野﨑 秀正 川瀬 隆千 立元 真 後藤 大士 岩切 祥子 坂邉 夕子 岡本 憲和 Hidemasa NOSAKI Takayuki KAWASE Sin TATSUMOTO Hiroshi GOTO Shoko IWAKIRI Yuko SAKABE Norikazu OKAMOTO 宮崎公立大学人文学部 宮崎公立大学人文学部 宮崎大学 都城新生病院 いわきりこころのクリニック 細見クリニック カリタスの園 Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities Miyazaki University Miyakonojo Shinsei Hospital Iwakiri Mental Care Clinic Hosomi Clinic
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 = Bulletin of Miyazaki Municipal University Faculty of Humanities (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.105-120, 2021-03-10

本研究では、子育て支援サービスを提供する公的相談機関に対する母親の援助要請に焦点を当て、母親の育児に対する感情(育児感情)と信念(母性愛信奉)が、援助要請態度を媒介して援助要請意図に影響を及ぼす一連のプロセスを示した仮説モデルを検証することを目的とした。宮崎市内及びその近郊にて就学前の幼児(3 歳以上)の育児に携わる母親1000名に調査協力を依頼した。質問紙が返送され、かつ回答に不備のなかった470 名の回答を分析対象とした。仮説モデルに従い共分散構造分析を行った結果、育児感情及び母性愛信奉から3 つの援助要請態度を媒介して援助要請意図に影響を及ぼすいくつかのプロセスが明らかになった。このうち、利益とコストの態度を媒介したプロセスについては、いずれも子どもにとっての利益とコストを媒介したパスが有意であり、母親自身にとっての利益とコストの態度を媒介したパスはいずれも有意ではなかった。これらの結果より、子育ての悩みに関する母親の公的相談機関に対する援助要請については、母親の精神状態の解決に動機づけられているというよりも、その原因となっている子どもの問題を解決させることに動機づけられていることが明らかになった。こうした結果は、公的相談機関に対する母親の援助要請促進を促すには、援助要請が子どもにもたらすポジティブな影響を強調することや子どもと担当職員間の良好な関係づくりなど、子どもに焦点を当てたアプローチが有効になることを示唆した。
著者
川瀬 隆千
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.29-40, 2010-03-05

大学生(N=163)を対象に、「親性準備性尺度」(佐々木, 2000)を用いて、ボランティア活動などによる子育ての体験と親準備性との関連について検討した。その結果、子育て体験を持つ学生(N=35)は、そのような体験を持たない学生(N=128)より、高い親準備性をもっていることが認められた。特に、子育て体験は「乳幼児への好意感情」と関係していた。また、子育て体験のある学生は、そのような体験のない学生より、「親になるイメージ」を明確に持っている傾向があった。しかし、子育て体験と「育児への積極性」との関係は認められなかった。さらに、親準備性の性差について検討した結果、女性(N=128)は男性(N=27)より「乳幼児への好意感情」が高く、また「育児への積極性」が高い傾向になった。しかし、「親になるイメージ」については性差が認められなかった。このような結果は、子育てを学習する場が日常生活の中から失われつつある今日、ボランティア活動などを通して子育てを経験することが、これから親になる若い世代にとって極めて重要であることを示唆している。学生など、若い世代に対する意識啓発と共に、地域の中で子育てを体験できる機会や場を増やしていく必要がある。