著者
蓮實 重彦 中地 義和 工藤 庸子 保苅 瑞穂
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

1960年代から今日に至るまで、フローベールは、もっとも刺激的な批評装置を生み出す源泉でありつづけた作家である。とりわけ近年飛躍的発展を遂げた草稿研究と生成論的アプローチの領域では、プルースト、ランボー、ゾラ等とならんで、実質的踏査と理論的探究の両面においてもっとも充実した成果を見せている。本研究は、(1)フランス国立図書館とルーアン市立図書館に統合されたフローベール草稿資料のうち、マイクロ・フィルムあるいはコピーの形で入手することが可能なものをすべて購入し、日本国内の資料センターとしての機能を果たすこと(2)パリのCNR(国立科学研究センター)の活動に呼応して、研究教育センターとしての活動にとり組むこと、以上2点を目標としたものである。科学研究費補助金の交付を受けた2年間に達成した具体的な成果のうち主なものは以下の通り。1.『ボヴァリー夫人』『感情教育』『ブヴァールとペキュシェ』のマイクロ・フィルムをすべてA3版にプリント・アウトし、ナンバーを打つ(必要なフォリオを適宜参照するにはこの形式の資料を備えておくことが必要不可欠である)。現在マイクロ・フィルムは存在せず、A4版コピーのみ入手可能な『聖アントワーヌの誘惑』『サラムボー』『三つ物語』の草稿資料を購入し、内容を検討し分類整理してナンバーを打つ。以上で資料センターとしての物理的条件はほぼ整った。2.3500枚に及ぶ『ボヴァリー夫人』草稿の表裏のすべての内容を検討し、決定稿の該当ページとの対応を一覧表に作成した。これは草稿研究の基礎作業として極めて価値あるものであり、すでにCNRの研究グループから注目されている。現在は、若手研究者の積極的な参加と協力を得て、未完の問題作である『ブヴァールとペキュシェ』草稿の資料分析をすすめており、今後も大きな成果が期待される次第である。
著者
工藤 庸子 笠間 直穂子 南 玲子 郷原 佳以
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.51-63, 2005

平成17年度に開設された面接授業「初歩のフランス語」は、まったくフランス語に触れたことのない学習者が5回の授業を通して発音の原則を覚え、簡単な挨拶を交わすことができるようになることを目標としている。また同時に、異文化を内包する市民社会という点において日本にはるかに先んじているフランスおよび広域フランス語圏について馴染んでもらうことで、「社会、文化、歴史に開かれたモティヴェーション教育」を行うことを目指している。実際の授業では、一方向的な放送授業との差異化を図り、教師と学生のふれあいを大切にし、学生の反応に応じて、また時事問題などを取り入れながら、臨機応変に授業を運営する方針をとっている。こうしたヴィジョンに則って、担当講師たちがオリジナルの共通教材を制作した。「共通教材」とは、すべての教室で共有する最小限のコンテンツであり、各講師はそれをもとに自由に授業を展開することができる。今回制作したのは、カラーの図版やイラストを豊富に用いた6ページのコピー教材と、教材の例文のネイティヴ講師による発音を録音した音声教材である。教材制作は授業計画に沿って行われた。授業計画において、初回と第2回は発音やアルファベットを丁寧に解説し、第3回から第5回までは「パリ」、「フランス諸地方」、「フランス語圏」をテーマにして会話練習等を行うこととした。そこで、それぞれの地域について分担して資料を集め、カラー教材に収めた。教材の具体的な活用については、平成17年度1学期の担当講師による授業報告を参照していただきたい。初回と最終回の授業では、フランス語および授業についてのアンケートを実施した。アンケート結果の分析によって、生きた知識を取り入れながらコミュニケーションの手段としてのフランス語の基本を学ぶ「初歩のフランス語」の試みが好スタートを切ったことが窺える。