著者
高村 昇 平良 文亨 折田 真紀子 高橋 純平
出版者
長崎大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

本研究で明らかにすることは、1)チェルノブイリ周辺地域における甲状腺超音波所見の自然史と、2)甲状腺がんの自然史およびその長期的予後、である。研究代表者が20年以上にわたって共同研究を行ってきたジトーミル州立診断センターでは、2006年からは現在福島県民健康調査で使用されている超音波装置と同じ機器を使用して甲状腺超音波検査を実施し、全ての受診者の画像を経年的に保存している。本研究では、事故(1986年)前に生まれ、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくをうけた群(被ばく群)と事故後に生まれ、甲状腺の内部被ばくを受けていない群(非被ばく群)の両群における初診時の画像を、福島県民健康調査の甲状腺検査の診断基準に合わせて分類(A1、A2、B)し、それぞれの群の画像を前向きに解析していくことで、甲状腺超音波所見の自然史を明らかにしていくと同時に、被ばく群と非被ばく群における所見の違いの有無についても解析を行った。その結果、被ばく群と非被ばく群において、甲状腺超音波所見に差異があったが、年齢で調整することによって有意差は消失することを明らかにした。すでに結果を取りまとめて論文を執筆し、国際専門雑誌に投稿している。今後は、甲状腺がんと診断された症例については、診断される以前の画像を後ろ向きに解析することで、甲状腺がん超音波所見の自然史を明らかにしていく。放射線被ばく群と非被ばく群における所見の違いの有無についても明らかにすると同時に、甲状腺がん症例の手術後の経過について前向きに解析することで、甲状腺がんの長期的予後についても明らかにする。
著者
平良 文亨
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

放射性核種の物質輸送は大気環境に依存し、地球規模で拡散すると考えられている。原子力ルネサンスが叫ばれる昨今、日本の西端に位置し原爆被ばく経験を有する長崎、1986年4月に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の影響があった周辺地域及び1949年~1989年の間に450回以上の核実験が実施されたセミパラチンスクにおける現在の放射線被ばくリスクについて評価した。まず、長崎県内における環境放射能調査から、放射性核種が気流の影響を受け大気環境に依存した挙動を示すことが確認された。次に、チェルノブイリ原子力発電所の事故により放射能汚染のあった地域(ゴメリ、ミンスク、コロステン、ブリヤンスク等)で消費される食用キノコ類を採取後、ガンマ線の核種分析を実施し放射能レベルの解析及び実効線量を算出した結果、チェルノブイリ原子力発電所に近接する地域(ゴメリ、コロステン)では長崎の約1,400倍高いセシウム-137濃度を示し、公衆被ばくの年間線量限度の約6分の1であった。また、土壌の核種分析結果から、チェルノブイリ原子力発電所事故の影響が大きいとされるブリヤンスク及びゴメリ州(ゼレズニキ)における外部被ばくの実効線量が比較的高い傾向であった。一方、セミパラチンスク市内に流通する食用キノコ類及び土壌の人工放射性核種レベルは長崎と同程度のバックグラウンドレベルであったが、核実験場施設内では閉鎖後20年経過しているものの複数の人工放射性核種が検出された。以上から、チェルノブイリ原子力発電所近傍及びセミパラチンスク核実験場内では、人工放射性核種が大量に放出された当時に比べ低レベルであるものの、現在も人工放射性核種が環境中に存在.し放射線被ばくリスクが賦存していることが示唆される。今後も低レベル放射線による健康影響評価についてフォローする必要がある。
著者
平良 文亨 古賀 康裕 高藤 愛郁 山口 仁士
出版者
長崎県環境保健研究センター
雑誌
長崎県環境保健研究センター所報 = Annual report of Nagasaki Prefectural Institute for Environmental Research and Public Health (ISSN:09140301)
巻号頁・発行日
no.54, pp.78-80, 2009-10

最近のエネルギー需要の増加や地球温暖化を背景として、原子力政策の見直し・推進による原子力関連施設の建設が世界的に進められている。一方、平成19年7月16日に発生した新潟県中越沖地震により、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所(新潟県柏崎市)6号機の使用済み燃料プールの水が漏えいするなど複合災害の問題や核の脅威(テロ)、放射性廃棄物の海洋投棄問題など原子力の利用に伴う想定外の事象も存在していることから、地域住民の安全・安心を確保するために環境放射能(線)のモニタリング調査による科学的根拠が重要となる。平成18年10月9日の北朝鮮の地下核実験の発表に伴い、わが国ではモニタリング体制を強化し当センターを含む全国の環境放射能分析機関で、放射能の影響の有無について観測したことは記憶に新しいところである。本県では、昭和36年度から核実験の実施に伴うフォールアウト調査としての環境放射能水準調査(文部科学省委託、佐世保港における原子力艦寄港に伴う環境放射線調査を含む)をはじめ、平成12年度から五島市及び対馬市における環境放射線等モニタリング調査(環境省委託)、平成13年度から長崎県地域防災計画に基づく環境放射線モニタリング調査(平常時のモニタリング調査)を九州電力(株)玄海原子力発電所の10km圏内に位置する松浦市鷹島町で実施している。日本の西端に位置する本県は、その地理的特徴から大陸からの移流により、酸性雨・光化学オキシダント・黄砂などは越境汚染の可能性が示唆されているが、放射性核種についても大陸起源のエアロゾルや土壌粒子に起因した物質輸送が考えられている。そこで、最近の県内における環境放射能の分布状況について解析したので、その結果を報告する。