著者
広瀬 和佳子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.30-45, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11

本研究は,書くことを協働で学ぶ学習者の相互行為を,発話の単声機能と対話機能の観点から考察した。学習者の言いたいことは固定的なものではなく,他者との対話によって変容し,明確化していった。このような発話の対話機能よりも,情報の正確な伝達を重視する単声機能が優位になると,権威者である教師や専門家のことばで語ることが目標となり,学習者は自分の言いたいことが実感できない。日本語だから表現できないというもどかしさを抱えることになる。学習者が「本当に言いたいこと」を表現するためには,対話を通して内省を深め,他者のことばとの葛藤によって新しい意味を創出していく過程,すなわち対立する価値観をぶつけあい,他者との関係をつくっていく過程を経る必要がある。
著者
広瀬 和佳子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.174, pp.1-15, 2019-12-25 (Released:2021-12-26)
参考文献数
14

本稿は,ピア・レスポンス (以下,PR) 実践研究の文献レビューを通して,教師のPR実践に対する評価観を分析した。CiNiiでの検索結果から,論文著者が教師としてPR実践を考察している論文を抽出し,68編 (異なり著者数44) を分析対象とした。PRはプロセス重視と協働の理念の下,様々な教育機関で実践されるようになったが,実践研究論文の多くは依然として作文の変化や自己推敲力の向上など認知的側面に及ぼす効果を分析していた。PRのプロセスや協働の意義など社会的側面に焦点をあてた研究のうち,実践者の教育観が明確であり,書くことの意欲や表現する喜び,学習者同士の関係構築を第一に評価し,相互行為そのものに価値をおいている論文は3編だった。実践者によってPRの意義づけは大きく異なる。実践者は何を目的にどのようなPRを実践したのか,自身の教育観を具体的な実践の文脈において自覚的に記述することが今後のPR実践研究に求められる。