著者
庄司 興吉 ショウジ コウキチ Kokichi SHOJI
雑誌
清泉女子大学紀要
巻号頁・発行日
vol.54, pp.17-28, 2006-12-26

米ソ冷戦終結後、世界が大きく変わりつつあり、「帝国」と呼ばれるような新しい支配システムが形成されつつあるなかで、アメリカにたいする同盟関係、批判的立場、激しい反発などを示しながら、世界各国および市民たちの動きが展開している。このような新しい地球社会状況をとらえるためには、ハバマスの新近代主義、ルーマンの超近代主義などでは十分でなく、フーコーやドゥルーズやガタリなどのポスト構造主義でも十分でない。西洋的知性の限界を本気で乗り越えようとしたデリダの思想と、それに刺激され、植民地化された体験をふまえて、まだ明らかにされていない植民地犠牲者や、新たに生み出されていく内的植民地の犠牲者たちの声を聞きながら、社会をとらえ直す必要性を強調したスピヴァクなどのポストコロニアリズムに学びつつ、「帝国」的システムを批判的にとらえていくことが必要である。そのために著者は、ハートとネグリの「帝国」論を評価しつつもそれを乗り越える立場から、帝国と市民社会をキーとする新しい社会発展論を展開し、地球社会の現状を、一方にいまだ市民化されていない多くの社会があるのにたいして、他方ですでに市民化されたのに再度主権を剥奪されていく、つまり脱市民化されていく社会がある状況としてとらえる。未市民化社会ではさらなる市民化が必要であり、脱市民化社会では、市民たちがあらためてもう一度主権を回復していく再市民化が必要である。このような視覚から現代世界を見直してみると、成長しつつある東アジア諸社会、発展しつつあるヨーロッパ連合、それ自体脱市民化されつつあるアメリカなどとの対比で、ナショナリズムにとらわれて「鎖国」気味の現代日本の危うい状況が浮かび上がってくる。
著者
庄司 興吉 佐久間 孝正 矢澤 修次郎 古城 利明 犬塚 先 元島 邦夫 武川 正吾
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1992

上記研究課題のもとに、1992年から94年にかけて、関西国際空港の建設と開港をめぐる大阪地域の動向調査を中心として、東京都中野区、墨田区および秋田県稲川町における住民意識調査、ならびにパイロット・スタディーとして日本の「周縁」沖縄・離島地域の調査研究を行った。それらを、大阪地域の調査結果を中心として、報告する。大阪調査の全体をつうじて明らかになったのは、首都圏の場合とは対照的に意識的に民間主導で進められてきた関西地域浮揚策の、政治的文化的に個性豊かな積極面と技術的経済的に経営困難な消極面とのコントラストである。これは、関西のめざす「双眼型国土形成」が東京一極集中の流れに抗して行われねばならぬ以上、かなりの程度まで不可避の矛盾であるが、われわれが調査したかぎり、この矛盾を根本的に解決する展望は経営者団体や自治体あるいはそれらの協議機関にも現れていない。そのため関西地域の自己浮揚策は、しばしば「イベント型の連続」などといわれるような、一回生起的で不安定な側面をもたざるをえなくなっている。今年1月になって阪神地域が大震災に見舞われたが、この事件が関西地域の長期的浮揚策にいかなる影響を及ぼしていくか、なお今後が注視されなければならないであろう。日本全体の社会構造と社会意識については、世界経済の情報化と円高のなか構造改善を要求されている企業システムと、高齢化と少子化による社会問題をかかえる家族・生活体とを基礎に、やみくもに「国際化」しようとする文化装置のかたわら、「国際協力」などについて確固とした道が見いだせず、ますます混迷の度を深めていく政府システムの姿が鮮明になってきた。これについては、これからなお検討を加え、研究成果を刊行する予定である。