- 著者
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張 音実
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.5, pp.472, 2017 (Released:2017-05-01)
- 参考文献数
- 3
ヒトの腸管,皮膚,口腔あるいは膣などの様々な部位には,多種多様な微生物(細菌と真菌)が常在している.これは“微生物叢(microbiota)”と呼ばれ,いわば微生物の集団社会である.この微生物叢は宿主と絶妙な相互作用を示しながら,宿主の健康維持や感染防御などに寄与している.しかしながら,微生物叢の構成バランスが破綻すると疾患へ進展することがある.例えば,炎症性腸疾患,大腸がん,尋常性乾癬,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,糖尿病や歯周病では,患者と健常人ではその微生物叢は大きく異なることが示されている.乳がんは,乳管や小葉上皮から発生し,その発生には女性ホルモンであるエストロゲンが関与すると考えられているが,不明な点も多い.Urbaniakらはヒトの乳房組織にも微生物が存在し,乳がん患者と健常人では異なる微生物叢が形成されていることを発見した.これは,乳がんの発症には特定の微生物が関与している可能性を示唆するものである.本稿では,乳房組織の微生物叢と乳がん発症の関連性に関する論文を紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Muszer M. et al., Arch. Immunol. Ther. Exp., 63, 287-298(2015).2) Urbaniak C. et al., Appl. Environ. Microbiol.,82, 5039-5048(2016).3) Hieken T. J. et al., Sci. Rep., 6, 30751(2016).