著者
松方 冬子 蓮田 隆志 橋本 雄 岡本 真 彭 浩 高野 香子 川口 洋史 木村 可奈子 清水 有子 原田 亜希子 北川 香子 西澤 美穂子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

主たる成果として、松方冬子編『国書がむすぶ外交』(東京大学出版会、2019年)を刊行し、前近代のユーラシアの全域にみられた「国書外交」とその周辺にあった通航証について明らかにした。おもな論点は、今までtributary system(華夷秩序・朝貢体制・東アジア国際秩序などと訳される)と呼ばれてきたものは、その実態からみるならば国書外交と呼べるものであること、国と国をつなぐ仲介者(商人や宗教者、国書の運び手となることが多い)の役割が重要であること、である。台湾の中央研究院で日明勘合底簿の手掛かりとなる史料を発見するなど、多くの実証的な新知見を明らかにした。
著者
彭 浩
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.95, pp.321-355, 2020

「雪月花」という言葉は,白居易の詩「雪月花の時に最も君を憶ふ」の影響を受け,日本で使うようになり,古典文学の世界だけではなく,現代人の生活に根付いていることに気づき,感動を覚えた。しかし,「雪月花」は,今は中国では使わない。今回は「雪月花」をモチーフにした日本の歌と絵画を通して日本人の自然観,美意識と心を考察し,また白居易の詩と比較して日本人と中国人の文学に対する考え方と美意識の違いを明らかにした。川端康成は『美しい日本の私』という講演のなかで,「雪月花の時,最も友を思ふ」というように使い,「友」の範囲を広め,人間・自然と美しい自然を見るときに人間の心まで含めた「友」にした。日本の文化は,「情」の文化といわれ,「もののあわれ」に代表されるように,自然の景色や文学作品に触れると,心に響いて感動することが多く,またそれを詩文や絵画に表している。「雪月花」を愛する心は「わび・さび」と同じく,禅の心に通じている。中国の文化は「意」の文化といわれ,儒教の影響が強く,文学が政治的な理想や倫理道徳を表現することが多く,風花雪月よりはもっと重みのある理性的な詩文や地道な生き方を求めるように思われる。 物質文明が中心になっている時代に,人間は心の感動を忘れているように思われる。現代人は疲れた心を癒す必要があるかもしれない。自然のなかで生かされている人類にとって,もう一度原点に戻り,謙虚に自然と人間,人間と人間の関係を考え直さなければならない時期が来ていると思われる。自然を愛し,すべての生命を愛し,雪月花の美しさを感じる心を忘れないようにしたい。