- 著者
-
影山 太郎
- 出版者
- 関西学院大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1998
英語と日本語における語彙の意味構造と構文的用法の検討を通して,動詞・名詞・形容詞を柱とする総合的なレキシコン(辞書)理論の開発を行い,14篇の論文を3部構成にして研究成果報告書をまとめた。第I部「統語論とレキシコン」(3篇)では,形態論の規則が語彙部門だけでなく統語部門でも成立すること,語と句の境界に「語+」という特別の範疇が存在すること,項の受け継ぎ現象が動詞の語彙概念構造および名詞の特質構造によって説明できることを明らかにした。第II部「動詞の意味構造とレキシコン」(5篇)では,動詞の自他交替が反使役化,脱使役化,使役化,場所表現の取り立てなどの意味操作によって行われることを示し,英語と日本語の相違を明らかにした。また,語彙概念構造における物理的位置と抽象的状態の表示形式に基づいて,言語体系と心理的外界認知とが異なることを明らかにした。第III部「名詞・形容詞の意味構造とレキシコン」(6篇)では,名詞および一部の形容詞の意味を検討し,語彙概念構造を特質構造に組み込む表記方法を提示した。これによって,動詞が名詞化された場合などで,動詞の意味構造と名詞の意味構造のつながりが明確化される。また,一般的な語形成規則によるのではなく,言語の創造性によって生じる偶発的な造語を特質構造で処理することを検討した。更に,英語が特質構造内部の主体役割や目的役割にかなり自由に言及できるのに対して,日本語はそのような意味操作が乏しく,複合語などの形態を重視することを指摘した。しかし名詞・形容詞に関する考察はまだ荒削りで,今後,副詞などの品詞も含めて更に精緻化を進めていく必要がある。