著者
戸田 裕美子
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.89-115, 2006-02

本稿では,初期の広告研究に重要な貢献をしたチェリントン(P. T. Cherington)の所説を当時の時代状況に照らして解釈し,その広告思想の展開基盤を明らかにすると共に,彼の主張が後の広告研究に及ぼした影響を議論する。19世紀末,不当表示や欺瞞的広告が横行する事態に対して消費者運動の中で広告批判が盛り上がりを見せた。これに対して,自主規制として1911年にプリンターズ・インク誌は虚偽広告を禁止する州法のモデル案を発表し,世界広告クラブ連合は1912年のボストン会議で「広告に真実を」というスローガンの下で広告浄化運動を展開した。こうした運動は1914年の連邦取引委員会法の中で欺瞞的広告を禁止する条項が織り込まれるという形で結実した。このような広告浄化運動を背景に,チェリントンは広告思想を発展させた。彼は当時の一般的な広告批判,(1)広告は消費者に偽りを伝え,消費者を騙すものであるから社会悪である,(2)広告は経済的浪費であるという2点に対する応答として議論を展開した。彼は第1の点に関して,真実の広告を守るためにも虚偽広告が社会から排斥されるべきだと考え,そのための規制や立法の制定,倫理規定の策定等,実際の制度設計に尽力した。第2点目については,広告が無駄ではない根拠として,広告費は販売費の削減に寄与すること,また広告費は大規模生産システムによってもたらされた生産費の縮減を源泉としており,それを広告に再投資することによる需要刺激が更なる生産量の増加をもたらし生産効率の向上を実現すること,さらに,広告の教育的側面に着目し,広告によって啓発された消費者はより良い購買者になってきたことなどを主張した。広告批判が高まり広告活動の否定的な部分が強調された時代の中で,広告の肯定的な側面を分析したチェリントンの広告思想は,後の広告研究に重要な貢献をなすものであったことを議論する。
著者
戸田 裕美子
出版者
日本マーケティング学会
雑誌
マーケティングジャーナル (ISSN:03897265)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.19-33, 2015-06-30 (Released:2020-05-19)
参考文献数
42
被引用文献数
1

本研究は流通革命論をめぐる議論を再整理し,「細くて長い流通から太くて短い流通へ」という単純化された一般的な解釈を超えて,流通革命論をめぐる議論を再整理し,各論者がどのように流通革命を捉えていたかを明らかにする学説研究である。また,本論は各論者の主張を時系列に並べる編年史的な学説研究ではなく,流通革命論をめぐる諸説の中で語られたいくつかの問題を明らかにし,それらの問題の論理的なつながりを整理する問題史的な学説研究である。一連の分析を通じて諸研究の連関を再構成し,流通革命論の知的広がりを解明して,結論部分では,流通革命論の中で展開された諸問題と今日的な流通課題との関連を明らかにする。流通革命という一見過去の問題と思われる論題を今日的な視点から分析することを通じ,新たな分析視角を得ることを企図している。
著者
戸田 裕美子
出版者
埼玉大学経済学会
雑誌
社会科学論集 = SHAKAIKAGAKU-RONSHU (The Social Science Review) (ISSN:05597056)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.15-44, 2018

In this paper, the author investigates the philosophical development of Dr. Seijji Tsutsumi's theory of distribution industry and criticism of consumer society. Dr. Tsutsumi was a president of Seibu Department Store and was a founder of the huge Seibu Distribution Group (later renamed as Saison Group), which consisted of approximately 200 companies in numerous industries. He also wrote many economic articles and books on the Distribution Revolution in Japan, in addition to poems and novels. He had a rare distinction of having a high reputation as a practitioner and also as a writer and novelist. This study illustrates his business background as a leader in the retail sector in Japan, dating back to the mid-1950s. Further, the author analyses his writings, including Tsutsumi (1963, 1976, 1977, 1979a, 1979b, 1985, and 1996) and interprets the significant elements of his unique theory of distribution industry. As a conclusion, the author discusses that the Muij business, which is one of the businesses created by Dr. Tsutsumi, has inherited the core concept of his theory and philosophy based on ‘logic of humanity’.