著者
村松 太郎 斎藤 文恵
出版者
認知リハビリテーション研究会
雑誌
認知リハビリテーション (ISSN:24364223)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.1-14, 2021 (Released:2021-10-11)
参考文献数
4

刑事事件の被告人となった失語症患者の(1)訴訟能力を判定し、(2)裁判に向けての目的に特化した言語訓練を行い、(3)法廷での支援を行った。障害を正確に理解し、最大限に有効な支援方法を見出し実行するというこの仕事は、認知リハビリテーションそのものであったが、ゴールが刑罰の確定であるという点だけが異なっていた。
著者
石原 裕之 穴水 幸子 種村 留美 斎藤 文恵 阿部 晶子
出版者
認知リハビリテーション研究会
雑誌
認知リハビリテーション (ISSN:24364223)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.17-25, 2015 (Released:2022-05-26)
参考文献数
8

我々は左側頭葉と後頭葉の境界部と頭頂葉,右後頭葉外側部の主に皮質下白質の梗塞により,健忘失語,仮名に強い失読,漢字の失書など様々な神経心理学的症状が認められる症例を経験し,その症例に対して複数の認知リハビリテーション介入を行った。その中でも今回は,読み書きの障害や前向性健忘に対する補助手段およびquality of life(QOL)の向上を目的に導入された,タブレット型端末用アプリケーションである高次脳機能障害者の日常生活支援ツール『あらた』の効果を中心に考察した。本例はこのツールを習得して使いこなしたが,これは残存していた能力をうまく利用したためと考えられた。使用開始後は行動範囲が広がる等のQOLの向上や,このツールの読み書きの訓練的意義等が示唆された。認知リハビリテーションには,個々の症状をターゲットにするだけでなく,様々な面からの統合的なアプローチが有効であると考えられた。
著者
斎藤 文恵 加藤 元一郎 村松 太郎 藤永 直美 吉野 眞理子 鹿島 晴雄
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.392-403, 2008-12-31 (Released:2010-01-05)
参考文献数
32
被引用文献数
5 2

漢字に選択的な失書を呈したアルツハイマー病と思われる症例を報告した。症例は51 歳右利きの男性で,漢字が思い出せずまた書けないことが主訴であった。本症例の特徴は,軽度の記憶障害および構成障害を認めるが,全般的知的機能障害が軽度であり,また失行,失認は認められず,さらに言語症状としては失語が存在せず,文字の読みにも問題がなく,仮名書字の障害が極めて軽度であるのに対して,漢字書字の障害が重度であったことである。漢字構造の結合・分解課題や漢字の正誤弁別課題の結果から,本症例における漢字失書は,漢字の視覚的イメージ (字形) の想起困難,および書字行為の間,そのイメージを保持することの障害により生じた可能性が高いと考えられた。またこの背景には,漢字の視覚的イメージの細部の想起障害と書字運動覚の障害の存在が示唆された。MRI および脳血流画像所見から,本症例の漢字失書の出現には,両側頭頂葉および左側頭葉後下部の障害が関与していると想定された。
著者
斎藤 文恵 加藤 元一郎 村松 太郎 藤永 直美 吉野 眞理子 鹿島 晴雄
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 : 日本高次脳機能障害学会誌 = Higher brain function research (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.392-403, 2008-12-31
参考文献数
32
被引用文献数
2

  漢字に選択的な失書を呈したアルツハイマー病と思われる症例を報告した。症例は51 歳右利きの男性で,漢字が思い出せずまた書けないことが主訴であった。本症例の特徴は,軽度の記憶障害および構成障害を認めるが,全般的知的機能障害が軽度であり,また失行,失認は認められず,さらに言語症状としては失語が存在せず,文字の読みにも問題がなく,仮名書字の障害が極めて軽度であるのに対して,漢字書字の障害が重度であったことである。漢字構造の結合・分解課題や漢字の正誤弁別課題の結果から,本症例における漢字失書は,漢字の視覚的イメージ (字形) の想起困難,および書字行為の間,そのイメージを保持することの障害により生じた可能性が高いと考えられた。またこの背景には,漢字の視覚的イメージの細部の想起障害と書字運動覚の障害の存在が示唆された。MRI および脳血流画像所見から,本症例の漢字失書の出現には,両側頭頂葉および左側頭葉後下部の障害が関与していると想定された。
著者
寺澤 悠理 梅田 聡 斎藤 文恵 加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.349-358, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

島皮質は,我々が感情を経験するために,自身の身体内部から生じる感覚と環境情報を統合する中心的な機能を担う部位として注目されている。本研究では,右島皮質に限局的な損傷を持ち基礎的な認知能力に問題のない症例 A を対象に,表情判断および,表している感情の強さの評価課題を実施した。島皮質が感情処理における身体反応の受容・調整とどのような関係にあるかを調べるために,課題実施中の皮膚コンダクタンス反応 (SCR) を記録した。喜びや中性表情の識別は正確であったが,怒りや嫌悪といったネガティブ表情については識別能力の低下が観察された。さらに,表情が表す感情の強さを低く評価する傾向にあった。一方,顔表情に対する SCR は健常群とほぼ同一であった。本研究の結果は,右島皮質が特殊な感情の認識にとどまらず,主観的に経験する感情の強さを調整し,感情の正確な識別に重要な役割を担っていることを示唆している。