著者
寺澤 悠理 梅田 聡 斎藤 文恵 加藤 元一郎
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.349-358, 2010-06-30 (Released:2011-07-02)
参考文献数
30
被引用文献数
1 1

島皮質は,我々が感情を経験するために,自身の身体内部から生じる感覚と環境情報を統合する中心的な機能を担う部位として注目されている。本研究では,右島皮質に限局的な損傷を持ち基礎的な認知能力に問題のない症例 A を対象に,表情判断および,表している感情の強さの評価課題を実施した。島皮質が感情処理における身体反応の受容・調整とどのような関係にあるかを調べるために,課題実施中の皮膚コンダクタンス反応 (SCR) を記録した。喜びや中性表情の識別は正確であったが,怒りや嫌悪といったネガティブ表情については識別能力の低下が観察された。さらに,表情が表す感情の強さを低く評価する傾向にあった。一方,顔表情に対する SCR は健常群とほぼ同一であった。本研究の結果は,右島皮質が特殊な感情の認識にとどまらず,主観的に経験する感情の強さを調整し,感情の正確な識別に重要な役割を担っていることを示唆している。
著者
寺澤 悠理
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.76-79, 2017-10-31 (Released:2017-11-14)
参考文献数
16
著者
関口 敦 菅原 彩子 勝沼 るり 寺澤 悠理
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.225-229, 2022 (Released:2022-05-01)
参考文献数
19

近年,心身相関の認知科学的な背景の1つとして「内受容感覚」が注目されてきた.内受容感覚とは,呼吸・心拍・腸管の動きなど身体内部の生理的な状態に対する感覚を指し,ホメオスタシスの維持に必要な機能と考えられている.内受容感覚の障害はさまざまなストレス関連疾患で認められており,「脳」と「身体」をつなぐメカニズムでもある.Damasioらの研究により,リスク行動を選択する際には危険を認知する前に交感神経反応が亢進していることが確認されていることから,「身体」と「行動」の関連も説明可能で,内受容感覚は行動を規定する因子とも考えられる.本稿では,「脳」と「身体」と「行動」の相互連関の因果関係を示した研究として,われわれが行った内受容感覚訓練実験を紹介する.内受容感覚を強化する認知訓練により,不安および身体症状の軽減,行動の変化を観測し,将来的なストレス関連疾患治療への応用が期待された.
著者
伊藤 友一 田仲 祐登 辻 幸樹 品川 和志 柴田 みどり 寺澤 悠理 梅田 聡
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第18回大会
巻号頁・発行日
pp.41, 2021-03-15 (Released:2021-03-15)

人の思考には時間(過去/未来),感情(ネガティブ/ポジティブ),自己/他者など様々な方向性があり,特に未来に関する思考のポジティブバイアスが多くの先行研究で示されている。しかしながら,それらは個人的な未来の想像を主な対象としており,他者の未来の想像でも同様のバイアスが生じるのかは明らかでない。本研究では,「私(彼)は/将来/試験に…」のように文手がかりを,主語,時間,内容の順に呈示し,自己または他者の未来について思考するよう参加者に求めた。このとき思考の感情価は参加者が任意に決定した。ポジティブ思考数がネガティブ思考数より多いことを以てポジティブバイアスとし,その傾向が自己に関する思考と他者に関する思考との間で異なるかどうか検討した。その結果,他者の遠い未来を想像するときにより強いポジティブバイアスが生じており,自己-他者間で異なる感情処理がなされていることが示唆された。
著者
寺澤 悠理
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

感情は身体内部と外部の環境情報の統合的な理解によって生じると考えられる。しかし、脳と心におけるその過程は十分に解明されたとは言い難い。この問題を解くために、本研究では、女性の性周期に伴う自律神経活動の変動に着目した。この変動が、感情の認識と制御に及ぼす影響とその機序を、脳における反応の変化を指標として理解する。具体的には、①1ヵ月間の実生活における自律神経活動の変動と感情認識・制御の関係の実態収集と、②自律神経機能計測と同時計測による機能的MRI研究を実施する。