著者
新原 立子 米沢 大造
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.37, no.10, pp.779-785, 1990-10-15 (Released:2009-04-21)
参考文献数
6
被引用文献数
2 2

(1) 厄前および厄後の素麺の脂質を添加して調製した乾麺についてゆで麺の物性を測定した結果,厄後の脂質によりかたさが増し,凝集性が小さくなりヤング率が増加した.これらの変化は素麺自体の厄による変化と同様であった.(2) 素麺から抽出した総脂質を単純脂質,糖脂質およびリン脂質に分画し,厄による極性脂質の量的な減少について調べたが大きな変化はみられなかった.(3) 脂質の各画分について厄による変化がゆで麺の物性に与える影響を調べた結果,脂質変化の影響は単純脂質画分の変化が主体で厄による極性脂質画分の影響はほとんど認められなかった.(4) 厄後の単純脂質画分は,厄前のものに比ベトリグリセリドが約17%減少し,脂肪酸が3.5倍に増加し,モノグリセリド及びジグリセリドが若干増加した.(5) 以上の結果から,手延べ素麺の厄現象の主原因は貯蔵中の脂質変化であることが確認されたが, 極性脂質の加水分解の直接的な影響はほとんど認められず, 遊離脂肪酸の大幅な増加がデンプン粒の膨潤やグルテンの性質に与える影響によるものと推察した.
著者
新原 立子 米沢 大造
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.28, no.10, pp.522-527, 1981-10-15 (Released:2011-02-17)
参考文献数
7
被引用文献数
3 2

1. 脂肪酸とモノグリセリドは小麦デンプン糊化時の膨潤を抑制したが,高温(95℃)に加熱すると膨潤抑制効果は消失した。卵黄レシチンは膨潤をいくぶん促進し,綿実油は添加効果がほとんど認められなかった。2. 小麦粉にオレイン酸を添加すると,小麦デンプンの場合と異なり,高温糊化時の膨潤が抑制された。この現象は食塩の存在でさらに顕著に認められた。3. 脱脂小麦粉の稀食塩水抽出液中でオレイン酸を含む小麦デンプンを糊化させると,高温においても膨潤抑制効果が認められた。4. 小麦粉稀食塩水可溶物質のひとつとして,タンパク質の寄与を調べるために,牛血清アルブミン,同α-グロブリン,小麦グルテンを小麦デンプン・脂肪酸系に添加して高温糊化時の膨潤性を調べたところ,食塩水中でのグルテンの添加を除き,いずれも添加効果が認められた。とくに食塩共存下の牛血清α-グロブリンの寄与は大きく,微量の存在で効果が認められた。5. このような,脂肪酸存在下でおこる小麦デンプンの膨潤抑制に対するタンパク質の寄与は単なるpH調節作用とは考えられない。以上より,小麦粉は脂肪酸と食塩の共存により高温糊化時もデンプンの膨潤はおさえられるが,それは小麦粉中のタンパク質の寄与によるものであることを結論した。そして脂肪酸,タンパク質,食塩の存在によるデンプンの膨潤性の低下が,厄後の手延素麺におけるゆで麺の膨潤性の低下の一因であることを指摘した。
著者
新原 立子 西田 好伸 米沢 大造 桜井 芳人
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.423-433, 1973 (Released:2008-11-21)
参考文献数
10
被引用文献数
3 2

(1) 製造中における手延素麺の水分含量は,梅雨期の“厄”において上昇して, 15%以上となった. (2) エーテルおよび水飽和ブタノールで抽出される脂質の量は,ともに貯蔵中に減少した. (3) 過酸化物価,カルボニル価は製麺時に上昇し,貯蔵中は15カ月間あまり変化せず,ヨウ素価,リノール酸の比率がやや増加する傾向がみられた.このように,素麺の脂質は酸化に対して安定であった.一方厄中の変化として,酸価の上昇がみられた. (4) タンパク質の溶解性はほとんど変化せず, 2回目の厄を越えた時点でやや減少した.アンモニア,アマイド窒素もほとんど変化はみられなかったが, 1回目の厄で10% TCA可溶の窒素量の増加がみられた.そして遊離のアミノ酸も, 1回目の厄で増加した.しかし油の酸化の始まる2回目の厄には,遊離のアミノ酸の減少がみられた.総アミノ酸には貯蔵中顕著な変化はみられなかったが, 2回目の厄後すべてのアミノ酸がやや減少した.また2回目の厄後,グルテンのデンプンゲル電気泳動図に変化が認められた. (5) 素麺からとれる湿グルテンの猛状が貯蔵中に変化し,生麺およびゆで麺の吸水率が低下した. (6) テクスチュロメーターによる測定では,ゆで麺のかたさが1回目の厄を越すことによって増加した.一方,凝集性は2回目の厄を越して初めて有意差のある低下が認められた.また粉末のファリノグラムも,貯蔵期間とともに変化した. ゆで麺の顕微鏡観察では,厄を越えた素麺はデンプン粒の膨潤が抑制されていることが観察された.