著者
渡辺 和子 細野 喜美子 嶋田 智明 吉田 正樹 佐藤 英一 新田 麗子 細野 喜美子 渡辺 和子
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

看護における移動技術の巧拙は看護者の体のテコのバランスの用い方と密接に関連しているが, 患者及び看護者の重心移動に関するより詳細なバイオメカニクス的研究は未だない. 重量負担の大きい患者の移動動作の効率的な介助方式の開発は, 老人人口が増加する今日の重要な課題である. 従って, 我々は日常用いられている看護者の移動技術を取り上げ熟達者と未熟者達の技術の差及び患者の受ける負担を力学的・生理学的に解明することを目的とした. 全介助の必要な患者を仰臥位から起坐位にする場合の技術の効率性を検討するために次のような実験を行った.1.熟練者の技術の特長から指導ポイントを取り出し, これを用いて未熟練者の指導前後の関節角度の変化を分析し, 指導ポイントの要因について考察し知見を引き出した.2.熟練者の移動動作における筋活動の発生順序の分析の結果, 動作初期の腓腹筋と大腿四頭筋・左上腕三頭筋・左上腕二頭筋の活動の様相に特徴が見られた.3.未熟練者の左右の腰背筋の筋電図と関節角度の変化を指導前後に測定した. 指導前に腰背筋は最大収縮力を使っているが, 指導後は低い筋活動で患者の移動を成功している. これにより指導ポイントがより明らかになった.4.熟練者から取り出した指導ポイントを用いて, 未熟練者14名の指導前後の筋電図の比較検討を行った. その結果, 指導によって動作はリズミカルになり, 筋活動も効率的となることが明らかになった.5.全介助の必要な患者をベッド上で仰臥位から坐位にする際, ベッドの高さに対して介助者の身体的負担への影響を検討した. その結果介助者の身体疲労・疼痛の程度は身長の50%のベッドの高さで最も少なかった.