著者
曲渕 詩織 山ノ内 崇志 黒沢 高秀
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2009, (Released:2020-11-10)
参考文献数
60

東北地方太平洋岸域の海岸林は東日本大震災で大きな被害を受け、現在、かつてない規模で山砂の搬入と盛土を伴う海岸防災林再生事業が進められている。生物多様性の劣化が懸念されるが、復旧事業直後の生物多様性に関する研究は乏しい。本研究では松川浦に面した砂洲である福島県相馬市磯部大洲において、施工直後の生育基盤盛土上の植物相と植生を調査した。造成完了から 3年以内で、植樹した翌年の生育基盤盛土上は、植被率が低く裸地に近い相観で、出現率が高かった植物の多くは一般に二次遷移の初期に出現するとされる夏緑性一年草や夏緑性多年草であった。木本は少なく高木性種はクロマツだけであり、海岸生植物は 3種類で被度も低かった。帰化植物は侵略的外来生物を含め 23種類(帰化率約 40%)であったが、被度は低かった。出現した維管束植物 58種類には震災前から林内や路傍で確認されていた種類が多く、生育基盤盛土の材料は砂岩由来で散布体に乏しいと推測されることから、これらは近隣から侵入したものが多いと思われた。本研究の対象地は限られたものであり、広大な復旧事業地の全域にわたる生物多様性の研究と知見の集積が望まれる。
著者
曲渕 詩織 黒沢 高秀 山ノ内 崇志
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.249-261, 2020 (Released:2020-09-29)
参考文献数
26

東日本大震災の津波と地盤沈下により仙台湾沿岸の海岸林の多くは壊滅的な被害を受け,現在,復旧事業として盛土とクロマツの造林が行われている.一方,復旧事業の範囲外にある海岸林跡地にはクロマツの実生が自然更新し始めた場所もある.このような海岸林の植生を把握するために,本研究では仙台湾沿岸の自然更新地4カ所と比較対象として造林地4カ所の植生を調査した.種の在不在を用いたNMDSによる解析では,自然更新地と造林地はそれぞれでまとまり混在しなかった.このことは両地点の種組成が異なることを示す.自然更新地の構成種には高木,低木および海岸生植物の種類数が多く,造林地に比べ種組成の違いが相対的に大きかった.このような差異の原因として,攪乱からの経過年数の違いのほか,盛土を伴う造林地では種子の供給が乏しく,また均一化されていることが考えられた.このことは,自然更新地が海岸林生態系の種多様性の保全の上で重要であることを示唆すると考えられた.