著者
會田 理人
出版者
北海道博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、明治期から昭和戦前期の北海道利尻島・礼文島、松前小島における海女の活動に焦点を当てて、海女出稼ぎ漁の歴史、および海女の道具・技術、さらには海女が採取した海産物の流通・利用、資源保全の実態などを、歴史学・民俗学の双方向から調査・分析を行う。その上で、北海道における海女出稼ぎ漁の歴史を明らかにするとともに、磯まわり資源の保全を取り巻く様々な環境の変化と、こうした状況への対応を考察することを目的としている。平成29年度は、研究代表者が勤務する北海道博物館において、同館所蔵の磯まわり漁具の再調査を実施して、それぞれの資料が有する特徴などの整理を行った。また、明治期から大正期の『小樽新聞』、『樺太日々新聞』掲載のコンブやアワビ、テングサなどの磯まわり資源に関する記事を収集・整理するとともに、記事内容のデータベース化を行った。新聞資料調査から、明治期から大正期の北海道日本海沿岸地域、樺太亜庭湾沿岸地域における採取物の種類・採取期ごとの漁況や、採取物の加工商品の流通・販売、道内外の商況など、海女出稼ぎ漁を取り巻く環境を再検討する作業を進めることができた。『小樽新聞』の調査は、主に小樽・積丹半島を中心とする地域の磯まわり漁や海産物の加工・販売、商況、北海道利尻島・礼文島の海女出稼ぎ漁に関する情報を収集するためのものである。『樺太日々新聞』の調査は、樺太亜庭湾沿岸地域の磯まわり漁などに関する情報を収集するためのものである。今後も引き続き新聞資料調査を継続して、海女出稼ぎ漁に関する記事の収集を続ける必要がある。
著者
氏家 等 朝倉 敏夫 村上 孝一 山田 伸一 池田 貴夫 會田 理人
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

日本時代から現在に至るサハリン朝鮮民族の生活文化の変遷について、サハリン州や帰還者の住む韓国安山市において、約30名のサハリン朝鮮人の方々から基礎的情報を収集し、記録にとどめてきた。その結果、朝鮮文化のなかでも、オンドルや頭上運搬のような日本時代ないしソ連時代初期に失われた文化要素が少なくない一方で、日本→ソ連→ロシア時代を通じて、(1)日本時代を経験した多くの朝鮮人がウズベキスタンの朝鮮人から餅米を取り寄せ、臼と杵を使って餅を掲き続けてきたこと、(2)ロシア人の墓とは対照的に朝鮮人の墓は盛り土の前に墓石を立てる朝鮮半島方式を守ってきたこと、(3)還暦の行事を朝鮮方式で行い続けてきたなど、継続して守ってきた文化があったことを確認し、食文化や精神文化に関する文化要素は残り、住生活、衣生活などにおいてはその継承が難しかったことを明らかにした。一方、サハリン朝鮮民族は、多様な民族的関係史のなかで、韓国スタイル、北朝鮮スタイル、日本スタイル、ロシア・スタイルをそれぞれ重層的に取り入れた多重化したライフスタイルを構築してきた。また、ペレストロイカ以降の自由主義経済の展開を通じ、韓国人、北朝鮮人、沿海州の朝鮮人、中国人、日本人との交流関係が定着し、そのライフスタイルはより多角化の傾向にあることがわかってきた。日本時代を経験した朝鮮人、ソ連時代に生まれ育ち多くを社会主義経済下で過ごした朝鮮人、ペレストロイカ前後に生まれ育ち多くを自由主義経済下で暮らした朝鮮人など、世代間でそのライフスタイルの指向に違いが見られる事実も浮かび上がっている。韓国安山市等に帰還した元サハリン在住者の間では、周囲にロシア文化を流入させ、韓国文化を拒否する人々が相次ぐなどの課題も生じている。これら新たに生じた課題に踏み込むことにより、サハリン朝鮮民族の文化に対する理解がより深まることとなる。