- 著者
-
月原 敏博
- 出版者
- 人文地理学会
- 雑誌
- 人文地理学会大会 研究発表要旨
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.54, 2010
地域環境と学校との関係を考えるために,福井県内の小学校校歌の歌詞(172校歌,165校分)を収集・分析した。その際,歌われている地域環境の要素のほか主体を含む景観の構図につき,歴史的変化も視野に分析した。 校歌で歌われる環境要素は,自然要素,歴史・文化要素,産業要素に細分できるが,自然要素では「白山」「九頭竜川」などの具体の山川や海が多く歌われており,可視性が重視されるとみなされた「白山」の場合を除き,学校から近距離にあるものが歌われていた。歴史・文化要素では寺社と城の名が多く,郷土史に関わる人名や神名も一部に現れていた。産業要素では農業関連の表現が多く,漁業関連の表現がそれに次ぎ,第二次・第三次産業に関わる表現はほとんど見出せなかった。 制定年に注目すると,「われら」や「ぼくたちわたしたち」といった児童自身を指す主体的要素の表現や,そうした主体要素と環境要素で構成される地域と,国家や世界など,地域を超える時空間との関係性の描き方には大きな歴史的変化が見られた。特に戦前・戦中と戦後とではそれらには大きな差があり,戦前・戦中に制定された校歌では国家や天皇に奉仕する忍耐強い姿勢が礼賛される傾向があったのに対し,戦後制定の校歌では「理想」「世界」「平和」「科学」「自由」などが対照的に現れ,校歌はそれが制定された時代を映す鏡でもあったことが判明した。 地域環境との関係では,近年では統廃合による学校数の減少によって歌われる具体の地域環境が減少傾向にあるが,地域環境を歌う際には抽象度において様々なレベルがあることも注目された。すなわち,近年に作られた校歌では,地域の環境を固有名で歌わず抽象的に表現する例が増えており,山川などの固有の地名が現れないために学校名を隠すと全国どの地域でも通用するような校歌さえ出現していた。このことも,歌われる地域環境の減少傾向を加速していることが判明した。