著者
上野 満雄 中桐 伸五 谷口 隆 有沢 豊武 三野 善央 小寺 良成 金澤 右 雄山 浩一 小河 孝則 太田 武夫 青山 英康
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.483-491, 1984-11
被引用文献数
1

日本国有鉄道の新幹線は,早朝から深夜まで過密ダイヤのもとで,高速度を出して走行している.したがって,新幹線車両の清掃労働者は主に,深夜労働に従事することを余儀なくされ,頻回な夜間勤務を行っている.本研究は,新幹線車両清掃労働者の健康に及ぼす夜間勤務の影響を検討したものであり,特に,連続夜勤の回数と健康障害の関係について評価を行った.本研究は二つの調査研究から成っている.最初の研究では,勤務実態と健康実態を明らかにするため,1か月間の夜勤の頻度,連続夜勤の回数,自覚症状を調査した,調査は,大阪駅で働く246人の男性清掃労働者に対して,日本産業衛生学会交代勤務委員会作成の質問用紙を配布する方法を用いて,1981年に実施した.調査結果は,勤務形態別に3グループに分けて比較検討を行った,グループAは,夜勤専従者であり,勤務編成は,週に5回の連続夜勤を基本とする102人のグループである.グループBは,一昼夜交代で週3回勤務をする124人のグループである.グループCは,週6回勤務の日勤者20人である.これら勤務の形態別比較の結果,グループAにおける胃腸障害,全身疲労感の訴え率が最も高く現われていた.最初の研究結果にもとづいて,2番目の研究では,連続夜勤の回数と健康障害の関係について検討を行うため,ケース・コントロールスタディを行った.研究対象は,最初の研究で対象とした夜勤労働者の中から60人を5歳階層ごとに無作為抽出し,3グループに分け各グループ20人ずつとし,方法は,産業衛生学会疲労研究会作成の疲労自覚症状を勤務の前後で1労働週にわたって自記させた.3グループは,グループA20人,グループB20人,グループD20人である.グループAとBは,最初の研究の同じ勤務形態であるが,グループDは,グループAのコントロールとして,夜勤3日目を非番日に変えた勤務に従事させた.調査の結果,グループAとBでは最後の勤務後に疲労自覚症状の訴え数が第1日目の勤務前と比べて有意に増加していたが,コントロールのグループDでは訴え数の有意な増加は認められなかった.これら二つの研究結果から,夜間勤務の形態と労働者の健康状態の間に密接な関連があり,5連続夜勤の3日目を非番日にすることは,労働負担を軽減するうえで効果的であることが明らかとなった.したがって,5回以上の連続夜勤に就労する新幹線清掃労働者の職業的健康障害を防止するためには,連続夜勤回数の頻度や労働時間に関する勤務条件の改善がなされるべきであると考えられた.
著者
上野 満雄 中桐 伸五 谷口 隆 有沢 豊武 三野 善央 小寺 良成 金澤 右 雄山 浩一 小河 孝則 太田 武夫 青山 英康
出版者
Japan Society for Occupational Health
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.483-491, 1984

日本国有鉄道の新幹線は,早朝から深夜まで過密ダイヤのもとで,高速度を出して走行している.したがって,新幹線車両の清掃労働者は主に,深夜労働に従事することを余儀なくされ,頻回な夜間勤務を行っている.本研究は,新幹線車両清掃労働者の健康に及ぼす夜間勤務の影響を検討したものであり,特に,連続夜勤の回数と健康障害の関係について評価を行った.本研究は二つの調査研究から成っている.<br>最初の研究では,勤務実態と健康実態を明らかにするため, 1か月間の夜動の頻度,連続夜勤の回数,自覚症状を調査した.調査は,大阪駅で働く246人の男性清掃労働者に対して,日本産業衛生学会交代勤務委員会作成の質問用紙を配布する方法を用いて, 1981年に実施した.調査結果は,勤務形態別に3グループに分けて比較検討を行った.<br>グループAは,夜勤専従者であり,勤務編成は,週に5回の連続夜勤を基本とする102人のグループである.グループBは,一昼夜交代で週3回勤務をする124人のグループである.グループCは,週6回勤務の日勤者20人である.これら勤務の形態別比較の結果,グループAにおける胃腸障害,全身疲労感の訴え率が最も高く現われていた.<br>最初の研究結果にもとづいて, 2番目の研究では,連続夜勤の回数と健康障害の関係について検討を行うため,ケース・コントロールスタディを行った.研究対象は,最初の研究で対象とした夜勤労働者の中から60人を5歳階層ごとに無作為抽出し, 3グループに分け各グループ20人ずつとし,方法は,産業衛生学会疲労研究会作成の疲労自覚症状を勤務の前後で1労働週にわたって自記させた. 3グループは,グループA20人,グループB20人,グループD20人である.グループAとBは,最初の研究の同じ勤務形態であるが,グループDは,グループAのコントロールとして,夜勤3日目を非番日に変えた勤務に従事させた.調査の結果,グループAとBでは最後の勤務後に疲労自覚症状の訴え数が第1日目の勤務前と比べて有意に増加していたが,コントロールのグループDでは訴え数の有意な増加は認められなかった.<br>これら二つの研究結果から,夜間勤務の形態と労働者の健康状態の間に密接な関連があり, 5連続夜勤の3日目を非番日にすることは,労働負担を軽減するうえで効果的であることが明らかとなった.したがって, 5回以上の連続夜勤に就労する新幹線清掃労働者の職業的健康障害を防止するためには,連続夜勤回数の頻度や労働時間に関する勤務条件の改善がなされるべきであると考えられた.
著者
上野 満雄 小河 孝則 中桐 伸五 有沢 豊武 三野 善央 雄山 浩一 小寺 良成 谷口 隆 金沢 右 太田 武夫 青山 英康
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.266-274, 1986-07-20
被引用文献数
1

日本国有鉄道の振子電車は,1973年以来,急曲線部の多い国鉄在来線の高速化を計る目的で開発されたものである.その原理は,車体と台車の間にコロが設けてあり,曲線部にかかると遠心力が車体自体に働いてこれを傾かせ,曲線通過速度を従来の型式より上昇させることができる.振子電車の導入は時間短縮に一定の効果をあげることができたが,走行中に従来よりは大きい横揺れが発生し,乗客・乗務員に,乗物酔いを起こすことが注目されてきた.本研究は,振子電車の動揺が乗客・乗務員に及ぼしている身体影響を,動揺病の特徴としてこれまで報告されてきた症状の発症との関連で検討する目的で従来の型式の列車を対照として比較検討を行った.また,同時に振子電車の持つ構造上の特性に由来する物理的特性についても検討を加えた.本研究においては,100人の乗務員と119人の乗客(男77人,女42人)双方を研究対象とした.乗客・乗務員の両群を選定したのは,業務としての動揺への曝露か否かによって発症の仕方に差が生じることが疑われたからである.乗客調査の対象者は,全走行時間を考慮し,電車の動揺による乗客への曝露時間を同一にするため,前述した2列車に2時間以上乗車した者とした.乗務員調査の対象者は,前述した2列車に乗務する車掌のうち,両列車の乗務条件を可能な限り近づけ,勤務条件に差のない列車ダイヤに乗務した者とした.これら研究対象者は,性,年齢を5歳階層に無作為抽出し,マッチングを行った.揺れの物理的特性を評価するため,著者らは,床上の振動加速度レベルを,従来の方法である1/3オクターブバンド分析計で分析すると同時に,FFT法による方法でも分析を行った.調査質問項目は,11項目の動揺病症状から成るが,乗務員に対しては,業務との関連を明らかにするため,疲労自覚症状30項目,動揺病症状の業務への影響,発症対策などの項目を加えて調査した.調査の結果,次に述べるような知見を得た.1)振子電車の乗客は,対照群の乗客と比較して,動揺病症状の訴え率が高く,そのために「乗り心地が悪い」と訴える者が多く,その理由として「ゆれが大きい」ことを理由に挙げる者が最も多く認められた.2)乗務員の動揺病症状訴え率は,振子電車乗務員が,対照群に比べて有意に高いことが認められた.3)動揺病症状の発症対策を講じながらも,振子電車乗務員は,対照群と比較して動揺病症状の発症によって業務に支障を来たしていた.4)乗務員と乗客との間に認められた動揺病症状の訴え率の差は,乗務員と乗客とでは乗務に対する対応の違いによるものと考えられた.5)振子電車乗務員は,振子電車に乗務するという労働負担によって,動揺病症状の発症のみならず,疲労自覚症状の発症を多発させていると考えられた.6)振子電車の物理的特性を評価するため,従来の方法による振動加速度周波数分析を行った結果,左右の振動加速度レベルは双方ともISO基準より低く,上下方向についても左右方向と同様ISOの基準より低いレベルにあった.しかし,FFT法によって5Hz以下の周波数分析を行った結果,1Hz以下の低周波数帯域に加速度のピークが振子電車で認められたのに対し,従来の型式では,1Hz以上の周波数帯域にピークが認められた.以上の結果を考察すると,振子電車の持つ物理的特性として,1Hz以下の低周波数帯域における振動の影響については動揺病発症との関連において重要であると考えられた.