著者
土田 宰 有馬 泰紘
出版者
一般社団法人 日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.20-26, 1993-02-05 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
4

異なる培土処理をしたダイズ植物の生育および根粒形成と窒素固定についてポット試験を行い,植物の生育ステージにそって検討した.標準的な培土方法(高さ10cm)により,植物の生育と窒素集積量は,発芽後98日目でそれぞれ46%および40%の増加を示した.培土をすると多くの根粒が不定根上に形成され,定根と不定根に着生する根粒は重量も個数も増加した.固体当たりの最大の根粒活性(アセチレン還元能)は無培土の植物よりも高くなり,生育にともなう根粒活性の低下の時期も遅れた.培土部分にダイズ根粒菌を接種する方法は,標準培土処理の植物と比較して固体当たりの根粒の重量と個数を増加させた.しかし,定根と不定根に着生する根粒のサイズや重量の平均値は低く,根粒と根の間および根粒間での光合成産物の強い競合があったことを示唆していた.高く(15cm)培土をする方法は地上部と不定根,不定根根粒の生育を促進した.定根の生育およびそこに着生する根粒の量と活性は抑制されていたが,それらは不定根とそこに着生する根粒によって補われ,高く培土された植物の総窒素集積量と根粒活性は,標準培土を行った植物よりも著しく高くなった.
著者
山谷 紘子 横山 正 有馬 泰紘
出版者
土壌微生物研究会
雑誌
土と微生物 (ISSN:09122184)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.6-14, 2014

土壌微生物である根粒菌は主にマメ科植物根に形成される根粒という器官に共生し,生物的窒素固定を行う。宿主植物に形成される根粒の数は厳密に制御されていることが知られており,近年の遺伝学的および生理学的研究により根粒形成制御機構が解明されつつある。現在,根粒形成制御機構は,2つに大別して考えられている。根部のみで完結する局所的な機構と,根部だけでなく地上部も関係する全身的な機構である。局所的な制御機構には,エチレンなどの植物ホルモンやスモールペプチドが関与していることが示唆されている。また根部-地上部-根部という遠距離シグナルが関与する全身的な制御機構は、先行して形成された根粒が後続の根粒形成を抑制するという負のフィードバック機構であることが示されており,根部から地上部へのシグナル物質はアラビノース糖鎖が付加されたオリゴペプチド(CLE-RS2グリコペプチド)であることが明らかになっている。また地上部から根部への根粒形成抑制シグナル物質についても,植物ホルモンの関与などを含めて研究が進められている。本稿では根粒菌感染や根粒原基形成が引き起こす宿主植物の根粒形成制御機構について,最近の進捗を解説する。
著者
関本 均 有馬 泰紘 熊沢 喜久雄
出版者
日本土壌肥料學會
雑誌
日本土壌肥料学雑誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.p427-432, 1985-10
被引用文献数
1

水稲葉から揮散する窒素化合物(NH_3,NO_x)の水稲葉中での起源を調べるため,培地窒素を^<15>Nで標識して揮散窒素化合物の^<15>N濃度を測定した.揮散窒素化合物の^<15>N濃度は培地に^<15>N濃度51.0atom %のNH^+_4-N,NO^-_3-Nを8時間与えた場合でも0.1〜0.5atom %excessにすぎなかった.揮散窒素化合物のうち,アルカリ補修画分-Nが酸補修画分-Nよりも標識されにくく,NO^-_3区水稲の揮散窒素化合物の^<15>N濃度はNH^+_4区水稲よりも低くなる傾向がみられた.また,培地の^<15>N濃度を96.7,98.5 atom %にあげて32時間吸収させた場合でも,揮散窒素化合物の^<15>N濃度はNH^+_4区水稲,NO^-_3区水稲いずれも0.1〜0.2 atom % excessにすぎなかった.一方,このときの水稲葉内のNH^+_4-N,アミド-N,NO^-_2-N,NO^-_3-Nは^<15>N供与後16時間で10〜25 atom % excessで標識された.このことから揮散する窒素化合物の主要部分は,このような吸収直後あるいは同化初期過程にある窒素に由来しているのではないと考えられた.40 atom %の^<15>N標識化合物を8日間吸収させ,その後無標識培地に移して12日間,20日めまで揮散窒素化合物の^<15>N濃度を測定したが,0.1〜0.5 atom % excess で標識されたにすぎなかった.また,無標識培地に交換しても揮散窒素化合物の^<15>N濃度は,測定期間中にすみやかに希釈されることはなかった.これらのことからも,揮散する窒素化合物の主要部分は,吸収直後あるいは同化初期過程にある窒素ではないと思われた.^<15>N標識培地から無標識培地に植物を移す際にシクロヘキシミドによるタンパク合成阻害処理をくわえると,水稲が黄化するにしたがって揮散窒素化合物の^<15>N濃度が高くなる傾向がみられた.このとき,タンパク-Nは16〜20 atom % excessで標識され,揮散窒素化合物の^<15>N濃度よりもはるかに高かったが,^<15>Nで低い程度でしか標識されない代謝回転のおそいタンパク-Nの異化,分解過程で生じたNH_3やNO_xが,水稲葉から揮散する窒素化合物の主要な起源ではないかと推定された.