- 著者
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服部 新佐
- 出版者
- 公益社団法人 日本植物学会
- 雑誌
- 植物学雑誌 (ISSN:0006808X)
- 巻号頁・発行日
- vol.58, no.685, pp.1-7, 1944 (Released:2007-06-18)
- 被引用文献数
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7) ハシゴゴケは本邦より牧野富太郎氏に依つて採集された事の外, 其の産地等全く不明で從來何等研究者の手に觸れなかつたものであつた。幸に筆者は當博物館臘葉室所藏の苔類標本中に牧野氏が東京帝大構内池畔に採集され, STEPHANIに依つて Cheilolejeunea scalaris と鑑定された標本を見出した。之を研究するとSTEPHANIの原記相文によく一致する。恐らくは同種の co-type 標本と考へる。尚右の研究の結果本種は寧ろ Lejeunea 屬に入る可しと判斷し, 新組合を作つた。8) アカウロコゴケは本邦に廣く分布し, 相當變化に富む種類であるが, 從來其の圖がなかつたのでこゝに收録した。又アカソロヒゴケなる和名を有するが緑色が常であり (原記相文には viridis とある), 寒冷其の他の影響で赤色を帶びるに至るものである。尚 Alicularia connata HORIKAWA は本種の弱小なるものとして本種の範疇内に入る可きものである (原記載は sterilis とある)。依つて新たに異名とした。9) コバウロコゴケ (コヒシヤクゴケ) は steril の材料に依つて記載され, 花被及び苞葉等が末知であつた。依つて花被を有する標本に就き圖及び簡單な記載を與へた。同標本は吉永虎馬氏所藏, STEPHANIの鑑定にかゝはるものであるが, 内の1包は誤つて S. parxitexta と同定されて居た。本州の高山に生ずる。10) カハルクラマゴケモドキ (新稱) なる和名は産地香春岳 (豐前國) より採つた。種名は本種が結晶石灰岩上に群生する事を示す。特徴は第一に葉形を擧げねばならない。圖示する如くその腹縁の鋸齒は極めて特異である。腹葉は葉の下片と殆ど同形, 不規則に齒牙を廻らす。Porella tosana (STEPHANI) S. HATTORI, com. nov. (syn. Madotheca tosana STEPHANI in Bull. Herb. Boiss. V, 97. 1897.) に近いが以上の特徴及び葉形がより短廣なる點より區別出來る。一見殆ど黒色を呈する。11) ミドリムカデゴケ (クラマゴケモドキ) は本邦産同屬中最も大形な種の一である。葉及び腹葉に長刺を備へる點が著しい。未だ圖示したものを見ないのでこゝに略圖を附した次第である。尚本圖に使用したる標本は Spec. exam. の項に記した如くVERDOORN編 Exsiccata であるが誤つて Madotheca (=Porella) tosana STEPH. と同定してあつた。本標本を貸與せられた櫻井久一博士に厚く謝意を表する。12) ミカヅキゼニゴケ (新稱) なる和名は本種の特徴たる無性芽容器に對して與へた。廣く世界的に分布する種であるが, 我國に侵入したのは比較的近頃の樣である。こゝに侵入なる語を用ひた所以は本種が後述する如く極めて容易に識別されるものにも拘はらず, 初めて我國より報告されたのは僅か十數年前に過ぎないし, それも都市のみに限られて居るからである。筆者は東京では小石川植物園の温室及びその附近, 本郷の帝大構内或は上野の科學博物館の温室等で觀察したが, 昭和十四年八幡市高見町の新築間もない日鐵社宅に親戚を訪れた折, 未だ赤褐色の地肌を見せて居る庭園の一隅に本種とオホジヤゴケのみが生育して居るのを認めた。本種は1屬1種にして, 殆ど steril の状態に於てのみ見出されるものであるが, 筆者の見たものも總て steril であつた。然し常に葉状體上に見られる無性芽容器の三日月形に着目すれば直ちに識別出來るものである。13) オガサハラキブリツノゴケ (新稱) は小笠原に産する意であつて, 種名は本種の著しい特徴と考へられる所の葉状體下面中肋部より小球状の疣状突起を生ずる性質を指す。母島のヘゴ (Cyathea boninensis) の幹や切株上に群生する。