著者
小澤 寛樹 中根 秀之 黒滝 直弘 木下 裕久
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

ICD-10によってうつ病(と診断された長崎大学医学部・歯学部付属病院精神神経科を受診した50歳以上の患者のうち薬物抵抗性または薬物治療不耐性と判断する外来・入院症例を対象した。心疾疾患の既往またその他の重症な身体疾患がなく、頭部MRIを施行し、T2, T1画像にて確認される微小梗塞が存在するうつ病症例において書面にて同意を得た症例に対して脳梗塞の臨床適応が認められているcAMP増強薬(シロスタゾール)を使用した。シロスタゾールを脳梗塞後うつ病患者10名に関して50-200mg投与し、0、4、8, 12週時のHAMD、血清BDNFを測定した。HAMDは経時的に減少を示し、血中BDNFは経時的に増加を示した。一方統合失調症においては変化が認められなかった。基礎的検討としての神経幹細胞に対するリチウムとドーパミン作動薬でありメチルフェニデートの影響を検討した。リチウムは幼弱な神経細胞のマーカーであるTuj1陽性細胞数は、どの濃度でもコントロール群に比べ減少が認められ、1000μMではコントロール群に対して統計学的に有意に減少がみられた。メチルフェニデートは治療濃度においでは神経細胞の分化は促進し、高濃度では抑制を示した。一方グリアのマーカーであるGFAP陽性細胞に関しては、500μMまでは増加傾向を示したが、1000μMでは統計学的な有意差を持って減少が認められた。メチルフェニデートはグリアへの分化には影響は少なかった、また増殖能に関しては抑制的である。これまで我々は炭酸リチウムが濃度依存的に神経幹細胞の増殖能を促進することを報告しているが、このことは増殖の過程と分化は単純に同一というよりむしろ拮抗的なバランスが存在している可能性が示唆され、うつ病や統合失調症の難治化・慢性化にはグリア細胞の役割が重要であることが推察された。
著者
一ノ瀬 仁志 木下 裕久 中根 允文 三根 真理子 太田 保之
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.222-225, 2006-09
被引用文献数
1

長崎原爆投下時に爆心地から半径12km以内であって被爆者援護法で指定されていない地域に居住または滞在していた住民(以下,「被爆体験者」とする)は,放射線の推定線量から判断して,身体的な健康に影響は保有していないとされてきた。しかしながら,被爆体験者の被爆体験に起因する精神的・身体的影響が現在においても存在する可能性が否定できないことから,平成12年度に厚生労働省は国立精神神経センターを中核とした研究班を立ち上げ,調査時点で半径12km以内に居住する被爆体験者の精神的・身体的状態に関する疫学調査を行った。この調査によって,被爆体験者は,原爆投下と放射能被害に基づく精神的不安(トラウマ)が原因となって,今日においても精神的・身体的な悪影響を受けていることが確認された。この結果を受けて我々は,現在半径12km以遠に居住する被爆体験者においてトラウマがどのような精神的・身体的な影響を与えているかを分析するための実態調査を行なった。この調査では,平成12年度の国立精神神経センターが行った調査方法を踏襲する形式で行い,国立精神神経センターが得た調査結果との間で比較検討を行うことによって,半径12km以遠に居住する被爆体験者のトラウマが現在の精神的・身体的健康状態にいかなる影響を与えているのかを分析した。
著者
中根 秀之 田中 悟郎 木下 裕久 一ノ瀬 仁志
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

この研究の目的は、長崎でFEPの発生率を明らかにすることである。 我々は、1年の期間(2011年8月から2012年7月まで)の間、コホート研究を行った。 研究対象者は、キャッチメントエリアである長崎市近郊の精神科医療機関を受診した長崎市に在住する初診患者である。合計25人がFEPと特定された。 推定された年間発生率は、(概算にて)10,000人につき0.76であった。 精神病未治療期間の中央値は49日、平均値は1278日であった。 昭和53年~54年に長崎市で実施されたWHO共同研究DOSMeD Studyと比較したところ、概算では年間新規発症率が低い値となることが現在までの調査で推定された。