著者
M.H.B. Radford L. Mann 太田 保之 中根 允文
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.115-122, 1989-02-20 (Released:2010-02-26)
参考文献数
23
被引用文献数
5 4

意志決定は, 文化の違いを越えて共通に見られる基本的な認識作用である。本研究は, 長崎大学に在学中の156名を対象にして, 意志決定行為と人格特性について, JanisとMann (1977) が提唱した意志決定の葛藤理論に基づく尺度により調査した研究の第一報である。調査結果は, 葛藤理論に基づく予想を支持するものであった。すなわち, 意志決定者としての自己評価が高い場合には, 「熟慮」型の意志決定スタイルとポジティブな相関関係が見られ, 「自己満足」「防衛的回避」および「短慮」といった不適切なスタイルとの相関関係はネガティブであった。更に, オーストラリアの同年代で同質の学生と比較したところ, 意志決定行為の違いが明らかになった。この結果については, 意志決定の葛藤理論を文化の違いを越えて適用することの是非を問い直すという観点から考察をくわえ, かつ今後も継続的に比較研究することの重要性について述べた。
著者
一ノ瀬 仁志 木下 裕久 中根 允文 三根 真理子 太田 保之
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.222-225, 2006-09
被引用文献数
1

長崎原爆投下時に爆心地から半径12km以内であって被爆者援護法で指定されていない地域に居住または滞在していた住民(以下,「被爆体験者」とする)は,放射線の推定線量から判断して,身体的な健康に影響は保有していないとされてきた。しかしながら,被爆体験者の被爆体験に起因する精神的・身体的影響が現在においても存在する可能性が否定できないことから,平成12年度に厚生労働省は国立精神神経センターを中核とした研究班を立ち上げ,調査時点で半径12km以内に居住する被爆体験者の精神的・身体的状態に関する疫学調査を行った。この調査によって,被爆体験者は,原爆投下と放射能被害に基づく精神的不安(トラウマ)が原因となって,今日においても精神的・身体的な悪影響を受けていることが確認された。この結果を受けて我々は,現在半径12km以遠に居住する被爆体験者においてトラウマがどのような精神的・身体的な影響を与えているかを分析するための実態調査を行なった。この調査では,平成12年度の国立精神神経センターが行った調査方法を踏襲する形式で行い,国立精神神経センターが得た調査結果との間で比較検討を行うことによって,半径12km以遠に居住する被爆体験者のトラウマが現在の精神的・身体的健康状態にいかなる影響を与えているのかを分析した。
著者
竹本 泰一郎 千住 秀明 和泉 喬 門司 和彦 太田 保之 中根 允文
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

火山噴火災害の健康影響を把握し,継続的な健康管理にサーベイランスシステムを構築することを目的とした。長崎県雲仙普賢岳噴火の被災地である島原市と深江町で継続的に現地調査を行い、下記所見を得た。1)被災地の小中学生では噴火後「外で遊ぶことが減った」「テレビをみる・ゲームをする」など屋内の生活行動が増え、「夜中に起きる」「寝る時間が遅くなった」「朝起きるのがつらい」といった生活時間の変化も高頻度であった。「風邪を引きやすい」「咳・痰が出やすい」「喉が痛い」といった火山噴出物に由来する自覚症状も高頻度であった。また、これらの生活行動の変化・自覚症状が学校や家庭の避難で増強されていたことも特徴的であった。2)地域住民についてのアンケート調査では「眼の症状」が最も高頻度で、次いで「咳・痰の症状」であった。これらの有訴率は壮年期の女性、被害が大きい地区、避難住民で高かった。噴火活動の鎮静化とともに皮膚粘膜の刺激症状が低下したが、「咳・痰」「喘息」「呼吸困難」など呼吸器に関する症状は遷延化する傾向が認められた。3)スパイログラムによる呼吸機能検査では県内の非被災地に比べ閉塞性障害の頻度が高かった。4)避難住民に関する全般的健康調査(GHQ)では、壮年期の男女にストレスが強いこと、精神的健康度に頻回の避難、通院、自営業従事などが関わっていることが示唆された。以上の結果は、火山噴火の健康影響が火山噴出物による直接影響とともに避難・移住による生活環境や生業活動の変化をも包含していることを物語っている。
著者
太田 保之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1990年11月に始まった雲仙岳噴火災害は、1996年6月に噴火終息宣言が出されるまでに、44人の死者と広大な農耕地や多数の・家屋の焼失・埋没をもたらした。1991年9月から1995年9月までの期間に行われた被災住民の精神的健康に対する支援活動の中で、総計5回の健康調査が実施された。調査によって、次の諸点が明らかになった。(1)General Health Questionnaire30項目版(GHQ)の所見から、(1)GHQ得点8点以上(GHQ高得点者)のハイリスク群は、被災から8年間で66.9%から32.4%へと低下したが、被災地と同じ島原半島にあり、社会・経済状況が類似した対照地域の住民のGHQ高得点者率(12.3%)よりも明らかに高い水準にあった。しかし、(2)「不安感・緊張感」関連症状や「社会的無能力感」関連症状などは、避難生活開始から12ヶ月で改善した。(3)「抑うつ感」関連症状は、避難生活開始から3年〜4年以上も継続していた。(4)「対人関係困難感」関連症状は、被災から8年後にも継続していた。このように、被災住民の精神状態は時間経過と共に変化することが明らかになった。(2)自宅に戻った後の被災住民の生活実態と精神状態との関連でみると、(1)生活リズムの顕著な変化、(2)家族内役割の顕著な変化、(4)馴染みの人との付き合い減少、(5)健康感の喪失、などは精神的不健康と有意な関係にあった。(3)被災住民の精神的不健康のリスク要因は、(1)女性、(2)中・高齢者、(3)持病で長期間の受療者、(4)初期の頻回避難経験者、(5)自営業的就業者などであった。災害発生時には、被災住民の支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて、支援活動を行うことの必要性が明らかになった。