著者
本合 弘樹 原山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100032, 2016 (Released:2016-11-09)

1. 上高地の活断層  長野県松本市にある上高地は中部山岳国立公園の南部に位置し,山岳観光地として有名かつ人気が高いエリアである.また,今年の8月11日に『第1回「山の日」記念全国大会』が開催された際には注目が集まった.  その上高地において,南北に延びる活断層の存在が本合ほか(2015)により報告されている.明神地域南部から徳本峠周辺,島々谷南沢にかけて延びる上高地黒沢断層と徳本峠断層である.これらの断層は地形図および赤色立体地図で判読されるリニアメントの形成と密接な関係があると考えられる.  今回,本合ほか(2015)の研究結果を踏まえ,活断層の運動とリニアメントとして表れている活断層地形の形成との関係について考察した結果を報告する.2. 研究手順  本合ほか(2015)では研究地域において,赤色立体地図を用いてリニアメントを判読し,その結果を踏まえ,断層の存在が推定された沢を中心に地表踏査が行われた.そこで明らかになった活断層とリニアメントの位置を比較し,活断層地形の形成との関係について考察した.3. 上高地黒沢断層と徳本峠断層  上高地黒沢断層は本合ほか(2015)により命名された活断層であり,黒沢から稜線の鞍部を通り島々谷南沢にかけて延びている.1998年飛騨山脈群発地震(和田ほか, 1999)の発生に関係したと考えられている上高地断層(井上・原山, 2012 ; 本合ほか, 2015)を切っており,破砕帯露頭で見られる地層の引きずりから逆断層と考えられている.  また、徳本峠断層も本合ほか(2015)により命名された活断層であり,稜線上で鞍部になっている徳本峠を通り島々谷南沢にかけて延びている.上高地断層と接していると推定され,破砕帯露頭で見られる地層の引きずりから逆断層と考えられている.4. 活断層の運動と活断層地形との関係  黒沢が流れる谷地形や徳本峠(稜線の鞍部)の形成に関しては,活断層の運動による破砕帯の形成が関係していると考えられる.破砕帯の内部には断層粘土などが存在し外部より強度が劣るため,雨や雪などによって優先的に浸食が進むと考えられる.  また,上高地黒沢断層の上盤(西)側および徳本峠断層の上盤(東)側それぞれにおける斜面の勾配に違いがあるが,これには美濃帯中生層の沢渡コンプレックスが北東‐南西走向・北西傾斜であることが影響していると考えられる.逆断層の運動で地表に張り出す上盤の地層は不安定になる.上高地黒沢断層の上盤は受け盤,徳本峠断層の上盤は流れ盤であり,後者は地表に張り出す分の地層が層理面で滑動しやすくなるため,前者よりもやや緩やかな斜面を形成していると考えられる.【引用文献】本合弘樹・井上 篤・原山 智(2015) 日本地質学会第122年学術大会講演要旨,一般社団法人 日本地質学会,R5-P-17.井上 篤・原山 智(2012) 2012年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨,公益社団法人 日本地理学会,P015.和田博夫・伊藤 潔・大見士朗・岩岡圭美・池田直人・北田和幸(1999) 京都大学防災研究所年報 第42号 B-1,京都大学防災研究所,p.81-96.