著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本旧石器学会
雑誌
旧石器研究 = Palaeolithic research
巻号頁・発行日
no.5, pp.3-10, 2009-05
被引用文献数
2

長野県北部の野尻湖で掘削された堆積物試料に対して、花粉分析と有機炭素分析に基づいて7.2万年前から現在までの古気候を復元した。 7.2万年前から6.2万年前(MIS 4)の時代はゴヨウマツ類やトウヒ属を主とする亜寒帯針葉樹林が卓越する寒冷な気候であった。 6.2万年前から2.9万年前(MIS 3)までは相対的に落葉広葉樹の比率が高く、冷涼な気候であったが、数百年から2、 3千年周期の短い寒暖変動が多数認められる。この中では5.5-4.5万年前が相対的に最温暖の時期であり、その後2.9万年前に向かって寒冷化が進行する。 ATテフラはその最末期に位置する。 2.9万年前から1.8万年前(MIS 2前半)にかけてはトウヒ属やモミ属を主とする亜寒帯針葉樹林が卓越しており、厳しい寒さの時期(最終氷期最寒冷期)であった。 1.8万年前からコナラ亜属の増加に示される温暖化が始まり、何度かの寒の戻りを経ながら、 1.4万年前から1.2万年前にかけて急激に温暖化する。この1.8- 1.2万年前が晩氷期にあたる。 1.2万年前以降(MIS 1)では、冷温帯落葉広葉樹が卓越する温暖な気候が継続するが、多少の寒暖変動も認められる。Paleoclimate during the last 72 ka has been reconstructed in detail, based on the pollen and total organic carbon analyses on the drilled sediment core from Lake Nojiri, central Japan. The climate from 72 to 62 ka (MIS 4) was cold and dry with predominance of Pinus (Hapoxylon) and Picea. During 62 to 29 ka (MIS 3), deciduous broad-leaved trees were dominant, indicating a relatively warm period. AT tephra marks well the end of this term. Relatively warmest timing is around 55 to 45 ka, and quasi-periodic repeats of abrupt warming and cooling identified may correspond with the Dansgaard-Oeschger cycle. The climate in 29 to 18 ka (early MIS2) was coldest, the Last Glacial Maximum, and was characterized by dominance of subarctic conifers such as Picea and Ables. A slight warming started around 18 ka, followed by some cooling phases. This is the deglaciation time of the Last Glacial age (late MIS2). It became warm to the present level abruptly at 12 ka, and stable warm climate have continued during the last 12 ka (MIS 1), associated with a small fluctuations.
著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01
参考文献数
45
被引用文献数
8 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.<br>4点の<sup>14</sup>C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも<sup>14</sup>C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,<sup>14</sup>C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.<br>これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.
著者
河合 小百合 三宅 康幸
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.105, no.9, pp.597-608, 1999-09-15 (Released:2008-04-11)
参考文献数
41
被引用文献数
3 3

最終氷期の指標としての重要性が指摘されている姶良Tnテフラの粒度・鉱物・斜方輝石の化学組成を調べ, それらの地域差をまとめ, 本テフラの運搬・堆積過程を考察した.本テフラのうち最も広域にわたって追跡されるAT 3層・4層は, 噴出源から遠い地点ほど, 粗粒物質の割合・最大頻度粒径・重鉱物含有量・全重鉱物に対する不透明鉱物の割合が, テフラ運搬過程で働く重力淘汰に従って小さくなる.ただし, 大山などの他火山起源のテフラの混入の重鉱物組成への影響があること, 細粒な火山灰ほど, ある距離より遠方では重力淘汰の影響が小さいことなどが指摘される.火山豆石などとして凝集して落下することは, ATの運搬・降下プロセスに大きな影響を与えているとは考えられない.AT 3層と4層は同じ気象条件のもとで問隙をおかず短期間に堆積したと考えられる.
著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01
参考文献数
45
被引用文献数
8 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.<br>4点の<sup>14</sup>C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも<sup>14</sup>C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,<sup>14</sup>C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.<br>これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.
著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
45
被引用文献数
19 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.4点の14C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも14C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,14C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.