著者
原山 智
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.373-389, 2015-10-15 (Released:2016-01-15)
参考文献数
65
被引用文献数
6 5

日本を代表する山岳景勝地である上高地は,槍・穂高連峰などの高峰に囲まれた谷底盆地である.日本では山岳地域の河谷の多くが急勾配で狭いV字谷であるのに対し,上高地盆地の勾配(大正池-徳沢間10 km)は8‰と小さく,盆地の幅は600-900 mと広い.この緩傾斜で幅広の谷底は,12.4 kaに焼岳火山群白谷山-アカンダナ火山の活動により岐阜県側に流下していた古梓川がせき止められ生じた古上高地湖が埋積されて形成された.槍・穂高連峰を構成する第四紀カルデラ火山-深成複合体を観察する上でも上高地では優れた巡検が可能である.第四紀花崗岩である滝谷花崗閃緑岩も,巨大カルデラを埋積したデイサイト質溶結凝灰岩も谷底の遊歩道沿いで観察可能である.また形成まもないカルデラ火山では観察不可能な,カルデラ内部の陥没カルデラ縁断層,カルデラ床やカルデラ壁崩壊角礫岩が観察できる点でも貴重なフィールドである.
著者
原山 智
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.8, pp.293-308, 2015-08-15 (Released:2015-08-29)
参考文献数
35
被引用文献数
1 6

北アルプス北部,鹿島槍ヶ岳から爺ヶ岳,蓮華岳一帯には,第四紀前期更新世の火山-深成コンプレックスの断面が広く露出している.この一帯では火山活動と花崗岩マグマの上昇定置の直後にあたる1.6-0.6Maの間に傾動を伴う隆起が生じており,爺ヶ岳火山岩類と黒部川花崗岩が80°前後の直立に近い状態まで南北水平軸回転している.この巡検では,北アルプス稜線の爺ヶ岳南峰と中央峰の間においてほぼ直立した湖成堆積物や溶結凝灰岩層を観察するほか,爺ヶ岳火山岩層中に貫入した黒部川花崗岩の接触境界,黒部川花崗岩中に多量に含まれる暗色苦鉄質包有岩を観察する.さらにカルデラ外に流走したアウトフロー堆積物である大峰火砕流堆積物を大峰山地において観察する.大峰火砕流堆積物は東に40°前後傾斜している.北アルプスの隆起に引き続き,中期更新世以降に松本盆地東縁断層に沿った衝上運動が生じ,大峰帯の傾動隆起を引き起こした.北アルプスも大峰帯も第四紀以降の北部フォッサマグナと北アルプス一帯を支配した短縮テクトニクス場での構造運動により生じている.なお2.2-0.8MaのジルコンU-Pb年代値が報告された第四紀黒部川花崗岩が,定置直後の傾動隆起によりどのような熱年代学的応答をしたのかについても解説を行う.
著者
原山 智 大藪 圭一郎 深山 裕永 足立 英彦 宿輪 隆太
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.127-140, 2003-06-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
46
被引用文献数
11 16

飛騨山脈の隆起については,鮮新世後期から更新世初頭(2.7~1.5Ma)にかけて,最初の極大期があったとする点では,多くの研究者の意見が一致している.しかし,その後の第四紀の期間にテクトニックな隆起があったかどうかでは,意見が分かれていた.山麓の堆積物から隆起時期を推定する方法では,山脈の隆起がテクトニックなのか,アイソスタティックなのか,判定困難なため,本研究では飛騨山脈,爺ヶ岳一帯に分布する鮮新世後期~前期更新世の火山岩類の構造を解析した.この結果,これらの火山岩類はコールドロンをなしており,東に70°前後傾動していることが判明した.南方の高瀬川流域や槍穂高連峰での資料を加味すると,前期更新世後半(1.3Ma~)以降,飛騨山脈東半部の広い範囲で,東西圧縮場のもとでの挫屈による傾動・隆起を生じていることが明らかとなり,飛騨山脈の2段階にわたるテクトニックな隆起運動が明らかとなった.
著者
及川 輝樹 原山 智 梅田 浩司
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.21-25, 2001-02-27 (Released:2017-03-20)
参考文献数
23
被引用文献数
3
著者
原山 智 高橋 正明 宿輪 隆太 板谷 徹丸 八木 公史
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.Supplement, pp.S63-S81, 2010 (Released:2012-01-26)
参考文献数
28
被引用文献数
2 7

飛騨山脈の北半部中央を南から北へ流下する黒部川の流域はいまだ踏査の行われていない地域が残る地質学的秘境の状態にある.近年に至っても様々な発見が相次いできており,その代表的な例が第四紀黒部川花崗岩の発見である.黒部川花崗岩は黒部川右岸中流域の祖母谷温泉から黒部ダム- 扇沢にかけてバソリスとして露出している.黒部川流域は日本国内ではもっとも多数の花崗岩貫入時期が確認される地域であり,ジュラ紀(190 Ma 前後),白亜紀前期末(100 Ma 前後),白亜紀後期初頭(90 Ma),白亜紀後期末(70 Ma前後),古第三紀初頭(65-60 Ma),鮮新世初頭(5 Ma),鮮新世(3 Ma),第四紀更新世前期(2-1 Ma)の貫入ユニットが確認できる.この流域には源頭部から黒部川扇状地に至るまで多数の温泉や地熱地帯が知られており,祖母谷,黒薙地域には80℃を超える高温泉がある.また黒部峡谷鉄道の終点,欅平から名剣温泉にかけてはマイロナイト化した花崗岩類中に熱変成した結晶片岩類が捕獲され,その帰属が議論されてきた.本見学旅行では,飛騨山脈の形成という視点で黒薙・鐘釣・祖母谷の温泉と,欅平-祖母谷温泉間の鮮新世-更新世の花崗岩および剪断帯を取り上げ,観察する.
著者
苅谷 愛彦 原山 智 松四 雄騎 清水 勇介 松崎 浩之
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.131, no.4, pp.447-462, 2022-08-25 (Released:2022-09-08)
参考文献数
59
被引用文献数
1

The geomorphological and geological characteristics, distributions, and ages of block slopes that developed at two alluvial cones (Bentenzawa valley and Okumatazirodani valley) along the Azusa River in the Kamikochi area, northern Japanese Alps, are clarified. These block slopes were believed to be of Pleistocene glacial origin in previous studies. A field survey was conducted, applying microtremor array observations to estimate subsurface geology, and in situ terrestrial cosmogenic nuclide (TCN) dating to estimate age of occurrence. At the Bentenzawa alluvial cone, the block slope is composed of large blocks and lithic fragments originating from heterogeneous igneous rocks, mainly of welded tuff and granophyre, that do not exist in the Bentenzawa valley watershed. Large blocks and lithic fragments of the block slope show clast-supported facies accompanied by jigsaw-crack fracture structures without a fine matrix. A mass of rock blocks fell from a steep wall of igneous rocks around the head of the Okumatajirodani valley, at approximately 2280 to 3090 m a.s.l., on the opposite side of the Bentenzawa valley. Rock slope failure and runout debris flow of blocks are thought to be the principal motions behind the mass movement from the rockwall. Block behavior comprised 3 km horizontal and 1.5 km vertical movements. Blocks were finally transported to the alluvial cone of the Bentenzawa valley to form an opposing impact slope. The results of microtremor array observations suggest that materials of rock blocks about 20 m thick spread and were buried beneath the present riverbed of the Azusa River. The estimated volume of landslide materials is more than 1.1 × 107 m3; age is estimated to be 6900 ± 1000 yrs BP. The Bentennzawa block slope is not of glacial origin. The block slope at the Okumatajirodani alluvial cone consists of large lithic fragments of igneous rocks distributed in this watershed. A mass of rock blocks was supplied by slope failure or debris flow in the Okumatajirodani valley, and was transported and emplaced on the alluvial cone. The volume of the failure is estimated to exceed 2.9 × 105 m3 and its age is estimated to be 900 ± 100 yrs BP.
著者
原山 智
出版者
日本地質学会
雑誌
地質学論集 (ISSN:03858545)
巻号頁・発行日
no.43, pp.87-97, 1994-04-28
被引用文献数
12 16

最も若い露出プルトンの冷却史解明のため, 滝谷花崗閃緑岩 (北アルプス) の熱年代学的な研究を行った。垂直方向に累帯する岩相から4試料について鉱物年代を測定した結果, 黒雲母・カリ長石の鉱物年代 (K-Ar法, Rb-Sr法) は岩相によらず1.2-1.1 Maに集中することが判明した。ホルンブレンドのK-Ar年代は1.93-1.20 Ma であり, 深部相ほど若い傾向がある。これは深部ほど固結開始時期が遅れたためであろう。測定鉱物の閉鎖温度から冷却曲線を求めた結果, 平均冷却率は岩体浅所で350℃/Ma, 深部では550℃/Ma以上を示した。三次元単純熱伝導モデル計算による冷却曲線は指数減衰を示し, 岩体浅所での直線状の熱年代学的冷却曲線と大きく異なるため, 冷却前半 (2.2-1.2 Ma) では深部からの熱流入が, 後半では隆起活動による急速冷却が推定された。深部ほど冷却率が大きいのは, 冷却開始が深部では遅いため熱流入の効果は短期間で弱く, 単純熱伝導冷却に近づいたためと解釈できる。
著者
原山 智
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
日本地質学会学術大会講演要旨 第125年学術大会(2018札幌-つくば) (ISSN:13483935)
巻号頁・発行日
pp.107, 2018 (Released:2019-08-16)

【災害のためプログラム中止】 平成30年北海道胆振東部地震により学術大会のプログラムが大幅に中止となりました.中止となったプログラムの講演要旨については,著者のプライオリティ保護の見地からJ-STAGEに公開し,引用可能とします.ただし,学術大会においては専門家による議論には供されていませんので「災害のためプログラム中止」との文言を付記します.(日本地質学会行事委員会)
著者
本合 弘樹 原山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100032, 2016 (Released:2016-11-09)

1. 上高地の活断層  長野県松本市にある上高地は中部山岳国立公園の南部に位置し,山岳観光地として有名かつ人気が高いエリアである.また,今年の8月11日に『第1回「山の日」記念全国大会』が開催された際には注目が集まった.  その上高地において,南北に延びる活断層の存在が本合ほか(2015)により報告されている.明神地域南部から徳本峠周辺,島々谷南沢にかけて延びる上高地黒沢断層と徳本峠断層である.これらの断層は地形図および赤色立体地図で判読されるリニアメントの形成と密接な関係があると考えられる.  今回,本合ほか(2015)の研究結果を踏まえ,活断層の運動とリニアメントとして表れている活断層地形の形成との関係について考察した結果を報告する.2. 研究手順  本合ほか(2015)では研究地域において,赤色立体地図を用いてリニアメントを判読し,その結果を踏まえ,断層の存在が推定された沢を中心に地表踏査が行われた.そこで明らかになった活断層とリニアメントの位置を比較し,活断層地形の形成との関係について考察した.3. 上高地黒沢断層と徳本峠断層  上高地黒沢断層は本合ほか(2015)により命名された活断層であり,黒沢から稜線の鞍部を通り島々谷南沢にかけて延びている.1998年飛騨山脈群発地震(和田ほか, 1999)の発生に関係したと考えられている上高地断層(井上・原山, 2012 ; 本合ほか, 2015)を切っており,破砕帯露頭で見られる地層の引きずりから逆断層と考えられている.  また、徳本峠断層も本合ほか(2015)により命名された活断層であり,稜線上で鞍部になっている徳本峠を通り島々谷南沢にかけて延びている.上高地断層と接していると推定され,破砕帯露頭で見られる地層の引きずりから逆断層と考えられている.4. 活断層の運動と活断層地形との関係  黒沢が流れる谷地形や徳本峠(稜線の鞍部)の形成に関しては,活断層の運動による破砕帯の形成が関係していると考えられる.破砕帯の内部には断層粘土などが存在し外部より強度が劣るため,雨や雪などによって優先的に浸食が進むと考えられる.  また,上高地黒沢断層の上盤(西)側および徳本峠断層の上盤(東)側それぞれにおける斜面の勾配に違いがあるが,これには美濃帯中生層の沢渡コンプレックスが北東‐南西走向・北西傾斜であることが影響していると考えられる.逆断層の運動で地表に張り出す上盤の地層は不安定になる.上高地黒沢断層の上盤は受け盤,徳本峠断層の上盤は流れ盤であり,後者は地表に張り出す分の地層が層理面で滑動しやすくなるため,前者よりもやや緩やかな斜面を形成していると考えられる.【引用文献】本合弘樹・井上 篤・原山 智(2015) 日本地質学会第122年学術大会講演要旨,一般社団法人 日本地質学会,R5-P-17.井上 篤・原山 智(2012) 2012年度日本地理学会秋季学術大会発表要旨,公益社団法人 日本地理学会,P015.和田博夫・伊藤 潔・大見士朗・岩岡圭美・池田直人・北田和幸(1999) 京都大学防災研究所年報 第42号 B-1,京都大学防災研究所,p.81-96.