著者
杉浦 昌也 大川 真一郎 平岡 啓佑 桑島 巌 上田 慶二
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.309-314, 1975-03-01 (Released:2013-05-24)
参考文献数
29

左軸偏位の成因はGrant以来冠状動脈硬化(心筋線維症ないし心筋硬塞)に関係した伝導障害(左脚前枝ブロック)とされる.本報はその病理学的再検討である.56歳以上の老人1,000例の電気軸は正常58%,準左軸偏位(0~-29°)21.9%,左軸偏位(-30°~-180°)17.4%,右軸偏位2.7%であった.病理学的検討の結果,左軸偏位は心筋硬塞を20%,右脚プロックを16.1%に合併したが,他の軸群と比較して冠硬化,心筋線維症,心肥大のいずれとも特に有意な相関はない.また右軸偏位は右脚プロックを66.7%,右室肥大を22.2%に合併したが冠硬化,心筋線維症の合併頻度は他軸群と有意差を示さなかった.以上より左軸偏位の1部(20%)は心筋硬塞のごとく大きい壊死により説明されるが,その大部分は冠硬化,心筋線維症に無関係であり脚プロックに見られると同様の激伝導系(分岐部)の変性,線維症との関係を推定刺した.
著者
碓井 雅博 大川 真一郎 渡辺 千鶴子 上田 慶二 徳 文子 伊藤 雄二 杉浦 昌也
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.298-306, 1991-05-31 (Released:2010-09-09)
参考文献数
15

1954年RichmanおよびWolffは心電図上肢誘導で左脚ブロック型, 胸部誘導で右脚ブロック型を呈するものを“masquerading”bundle branch block (仮装脚ブロック) と呼んだ.我々は心電図上第I誘導で幅広いRと小さなSを, 第II, III誘導で深く幅広いSを有し, 胸部誘導にて完全右脚ブロックを示す当センターでの剖検例6例 (男4, 女2, 75~93歳) を対象として臨床病理学検討を行った.臨床所見では, 胸部X線上全例に心拡大を認め, 心電図上5例に1度房室ブロックを認めた.病理所見では, 心重量が350g以上の肥大心は5例であり, 陳旧性心筋梗塞を3例 (後壁2, 側壁1) に認めた.刺激伝導系所見では, 右脚と左脚前枝の二束障害を2例に, 右脚と左脚前枝, 同後枝の三束障害を2例に認め, 左脚前枝と同後枝の二束障害が1例であった.「仮装脚ブロック」の発生機序として, 1) 左脚の広範な障害, 2) 後側壁の心筋梗塞による修飾, 3) 著明な心肥大の影響が示唆された.
著者
星野 智 大川 真一郎 今井 保 久保木 謙二 千田 宏司 前田 茂 渡辺 千鶴子 嶋田 裕之 大坪 浩一郎 杉浦 昌也
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.130-135, 1992-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
17

悪性腫瘍の心転移はまれでないが生前診断は困難なことが多い.今回剖検例にて発見された転移性心腫瘍につき臨床病理学的検討を行った.1980年から1987年の連続剖検2,061例のうち肉眼的に転移性心腫瘍の認められた64例を対象とした.年齢は55歳から93歳(平均76.6歳),男39例,女25例であった.全悪性腫瘍は845例であり,心転移率は7.6%であった.原発巣は肺癌34例が最も多かった.心転移率は肺癌,胃癌などが高かったが,消化器癌では低かった.転移部位は心膜81.3%が最も多く,心内膜へ単独に転移した例はなかった.心膜へはリンパ行性転移が多く,心筋へは血行性転移が多かった.特に肺癌は心膜の転移,心房への転移が多い傾向にあった.心単独の転移はまれで55例は他の臓器へ転移が認められ,肺,肝,胸膜,骨に多かった.心電図異常所見は95%にみられたが,転移部位による特異性は認められなかった.しかし心膜転移例で心膜液量増加に伴い低電位差と洞頻脈が高率に出現してきた.悪性腫瘍を有する患者では常に心転移を念頭におき,注意深い臨床観察が必要である.