著者
星野 智祥
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.369-382, 2015 (Released:2015-12-25)
参考文献数
70
被引用文献数
4 1

日本は原爆による被ばく国として, また原発事故の当事国として, 深刻な放射線災害を経験してきた. その一方で, 日本は他の先進国と比べて国民の医療被ばくが多く, その主な要因は, 診断を目的としたCT検査が増え続けていることである. 福島原発事故が発生してから, 全国的に低線量被ばくと発がんのリスクについて議論が繰り広げられてきたが, 近年, 大規模コーホート研究において, CTスキャンからの低線量電離放射線による発がんリスクが明らかとなってきている. CTスキャンは短時間で解像度の高い画像が得られるため, 医療現場には欠かせない重要な診断技術となっているが, 患者の利益とリスクのバランスの上に立ち, CTが適切に使用されているのかどうか評価することがきわめて重要である. 病院総合医に求められる中核的能力には, 病院医療の質を改善する能力, 他科やコメディカルとの関係を調整する能力が含まれる. この観点から, 病院総合医が放射線科医や放射線技師らと協力し, CTの使用を正当化しながら, 不必要な被ばくを最小限にするためにはどのような役割を果たせるのか考察した.
著者
星野 智祥
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.228-242, 2015 (Released:2015-09-28)
参考文献数
38
被引用文献数
2

高齢になるにつれ不眠症の有病率は高くなることが知られている. しかし, 不眠症治療の主要な対象となりうる高齢者は薬理学的にその副作用を被りやすいと考えられるが, 忙しい現在の診療システムの中では, その有益性とリスクについて十分な説明がないまま薬物治療が安易に導入されやすい傾向にある. そこで, 我々はベンゾジアゼピンを中心とする睡眠薬が高齢者の健康にどのような影響を与えるのかPubMed検索で調査を行い, リスクや有益性という観点から現在のエビデンスを示し, 睡眠薬の適正使用に貢献したいと考えた. その結果, 高齢者に対する睡眠薬の使用は認知症の発症や, 転倒による骨折や外傷のリスクを増加させる可能性があることが示された. さらに, 短期的な使用では睡眠の質改善効果は期待できるものの効用は小さく, 長期的な使用ではその有益性に十分なエビデンスがないことが示された. 今後, 睡眠薬の使用は短期的な効用を期待するだけでなく, そのリスクを勘案して適正使用していく必要がある.
著者
星野 智子
出版者
大阪女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度も平成12年度に引き続き主に神道系宗教団体の水子供養調査に力を注いだ。平成11年度までは、日本社会では仏教系の宗教団体を対象に水子供養調査を行ってきたので、比較を行うためである。調査を行った中の神道系B教会では、大祭を参与観察し、教会長や信徒にインタビューを行った。この教会では、先祖の冥福を祈る大祭のなかに水子を入れ込んでいる。水子を祀っている人は30歳代前半から70歳代後半の女性まで多様であった。教会長へのインタビューによれば、「今生きている者がすべての御霊を慰める必要があり、とくに亡くなった胎児の霊は悲しがっているので祀ることが大切だ」という。「悲しがる」という表現や信徒へのインタビューでも推察できたが、亡くなった胎児を亡くなった"人間のように"扱っていた。さらに大祭では「食べ物を供えて真心を表しているので、神様の元で安らかに眠り、ゆかりのある人を守って、幸を与えたまえ」という祝詞があげられた。これは、日本の民俗宗教の根底にある「死者の霊をきちんと供養しなければならない。祀ることによってオカゲがある」という考えに繋がるものであろう。報告者が研究の目的で提示した「日本社会では先祖供養を行うことが潜在意識として根付いている。言い換えれば民俗宗教の行為として先祖供養が定着しており、それが現代において水子供養にまで拡大した。」という仮説を裏付けるものである。最終的には、複数の神道系宗教団体などを調査して、胎児の葬送についての考えを仏教系団体と比較し、水子供養について社会学的に考察したい。なお、水子供養というテーマの質から参与観察やインフォーマントへの聞き取りについても慎重に行う必要があり、このことから調査の方法についてもあらためて研究した。報告者は本年度に収集したデータを整理し、水子供養と民俗宗教との関連、質的調査法について論文を執筆し、学術雑誌あるいは図書に掲載する予定である。
著者
星野 智 大川 真一郎 今井 保 久保木 謙二 千田 宏司 前田 茂 渡辺 千鶴子 嶋田 裕之 大坪 浩一郎 杉浦 昌也
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.130-135, 1992-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
17

悪性腫瘍の心転移はまれでないが生前診断は困難なことが多い.今回剖検例にて発見された転移性心腫瘍につき臨床病理学的検討を行った.1980年から1987年の連続剖検2,061例のうち肉眼的に転移性心腫瘍の認められた64例を対象とした.年齢は55歳から93歳(平均76.6歳),男39例,女25例であった.全悪性腫瘍は845例であり,心転移率は7.6%であった.原発巣は肺癌34例が最も多かった.心転移率は肺癌,胃癌などが高かったが,消化器癌では低かった.転移部位は心膜81.3%が最も多く,心内膜へ単独に転移した例はなかった.心膜へはリンパ行性転移が多く,心筋へは血行性転移が多かった.特に肺癌は心膜の転移,心房への転移が多い傾向にあった.心単独の転移はまれで55例は他の臓器へ転移が認められ,肺,肝,胸膜,骨に多かった.心電図異常所見は95%にみられたが,転移部位による特異性は認められなかった.しかし心膜転移例で心膜液量増加に伴い低電位差と洞頻脈が高率に出現してきた.悪性腫瘍を有する患者では常に心転移を念頭におき,注意深い臨床観察が必要である.
著者
星野 智
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9・10, pp.473-498, 2015-03-10

一九一四年に勃発した第一次世界大戦は、覇権国家論の観点からみると、この戦争はイギリス帝国の覇権に対するドイツ帝国の挑戦であるというように捉えられるかもしれない。実際問題として、ドイツにおける一八九八年の艦隊法の制定以後に英独間で展開された建艦競争は、第一次世界大戦前における英独間の大きな対立点の一つであった。そして第一次世界大戦前の英独間のもう一つの対立点は、バグダッド鉄道建設と石油資源に関するものであった。当時、イギリスもドイツも自国内に石油資源を保有していなかったため、北メソポタミアの油田は両大国の利害関心の的となっていた。 第一次世界大戦前にイギリスとドイツは海軍における軍拡競争を展開していたが、その背後では石油資源をめぐって、攻防と協議が繰り広げられていた。大戦勃発とともにイギリスとドイツとの間の協議は最終的には失敗に終わった。「石油戦争」をめぐる問題は、第二次世界大戦においても、連合国と同盟国間での大きな対立点であり、今日においても、二〇〇三年のイラク戦争をめぐる問題に顕在化している。本稿は、第一次世界大戦前のバクダッド鉄道建設計画とメソポタミアの石油資源をめぐるイギリスとドイツとの攻防について検討するものである。
著者
成田 雅 鵜沼 菜穂子 伊藤 文人 佐藤 憲行 星野 智祥 井上 実 山本 正悟 安藤 秀二 藤田 博己
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.101, no.1, pp.164-167, 2012 (Released:2013-04-11)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

タテツツガムシによるつつが虫病の臨床像は多彩で見逃されることが多い.病歴(好発時期と好発地域,野外活動歴),バイタルサインと身体所見(発熱,比較的徐脈,発疹,刺し口)から積極的に疑い,疑わしければ直ちにテトラサイクリン系抗菌薬にて治療を開始すべきである.血清学的にはKawasaki型あるいはKuroki型のOrietia tsutsugamushi抗原に対する抗体価の上昇が特異的であるが,これらは一般的な外注検査での抗体価測定には含まれないことに注意する.痂皮の遺伝子学的検査も特異性が高く有用である.
著者
八木 秀明 星野 智史
出版者
一般社団法人 日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.275-278, 2021 (Released:2021-04-28)
参考文献数
7

For autonomous mobile robot navigation, localization is a fundamental technique. For this purpose, environmental maps are usually given beforehand by using SLAM. In stead of SLAM, we use an existing geographical map. Since road and building information are already included in the map, we focus on the scan data of the actual road surface and buildings in the environment obtained from a 3D LiDAR. In the map, MCL technique enables a robot to estimate the position. In the experiments, we show that the robot is able to autonomously move more stably through the localization with not only the scan data of the road surface, but also the ones of the buildings.
著者
星野 智
出版者
中央大学出版部
雑誌
中央大学社会科学研究所年報 (ISSN:13432125)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-14, 2015

Recently many asylum seekers from Syria moved toward European countries, especially, Germany and applied for refugee status. According to the German ministry of Internal Affairs, the number of asylum seekers that entered into Germany in 2015 amounts to 1.1 million. But on the other hand, new right-wing populist party supported by many people who object to entering refugee is rising in Germany. It is the Alternative für Deutschland (AfD). This article aims at reviewing the rise of right-wing populist parties in Germany from the post World War Ⅱ period to the present. Particularly we intend to focus on the the rise and its internal fragmentation of AfD.
著者
南塚 信吾 下斗米 伸夫 加納 格 伊集院 立 今泉 裕美子 佐々木 直美 木畑 洋一 橋川 健竜 小澤 弘明 趙 景達 山田 賢 栗田 禎子 永原 陽子 高田 洋子 星野 智子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、1980年代の世界史を、いわば輪切りにして同時代史的に分析し、それを一つの有機的に繋がる世界史として認識する視座と方法を探り出すことを目的とした。そして、まず、現代に繋がるグローバルな諸問題を確認した。それは、(1) グローバリゼーションの過程の始まり、(2) ネオリベラリズムの登場とIMFモデルの神格化、(3) 市民社会論の台頭、(4) IT革命、(5) 大量の人の移動などである。次いで、このグローバルな問題に対応して、世界の諸地域での根本的な変化を確認した。そして、アフリカやラテンアメリカでの構造改革から始まり、中越戦争、アフガン戦争、イラン革命の三つの変動を経て、ソ連や東欧での社会主義体制の崩壊、イスラーム主義の登場と湾岸戦争などにいたる世界の諸地域の有機的相互関係を析出した。