著者
星野 智 大川 真一郎 今井 保 久保木 謙二 千田 宏司 前田 茂 渡辺 千鶴子 嶋田 裕之 大坪 浩一郎 杉浦 昌也
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.130-135, 1992-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
17

悪性腫瘍の心転移はまれでないが生前診断は困難なことが多い.今回剖検例にて発見された転移性心腫瘍につき臨床病理学的検討を行った.1980年から1987年の連続剖検2,061例のうち肉眼的に転移性心腫瘍の認められた64例を対象とした.年齢は55歳から93歳(平均76.6歳),男39例,女25例であった.全悪性腫瘍は845例であり,心転移率は7.6%であった.原発巣は肺癌34例が最も多かった.心転移率は肺癌,胃癌などが高かったが,消化器癌では低かった.転移部位は心膜81.3%が最も多く,心内膜へ単独に転移した例はなかった.心膜へはリンパ行性転移が多く,心筋へは血行性転移が多かった.特に肺癌は心膜の転移,心房への転移が多い傾向にあった.心単独の転移はまれで55例は他の臓器へ転移が認められ,肺,肝,胸膜,骨に多かった.心電図異常所見は95%にみられたが,転移部位による特異性は認められなかった.しかし心膜転移例で心膜液量増加に伴い低電位差と洞頻脈が高率に出現してきた.悪性腫瘍を有する患者では常に心転移を念頭におき,注意深い臨床観察が必要である.
著者
横手 幸太郎 山之内 博 水谷 俊雄 嶋田 裕之
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-40, 1992-01-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4

今回我々は, 最近18年間の東京都老人医療センターにおける連続剖検例のうち, 脳の病理学的所見からウェルニッケ脳症と診断された5症例を対象に, その臨床像の特徴を検討した. すなわち, 病理所見上1) 肉眼的に両側乳頭体の点状出血または褐色を帯びた萎縮がみられる. 2) 組織学的に, 乳頭体, 第3脳室周囲, 中脳中心灰白質に出血, 毛細血管の増生, マクロファージの動員がみられるが, これに比して, 神経細胞の脱落は比較的軽度である. 等の特徴を持つものをウェルニッケ脳症とした.年齢は63歳から74歳 (平均年齢67±4歳), 5例とも女性であった. 基礎疾患は神経疾患, 代謝性疾患, 悪性腫瘍, 消化器系疾患と多岐にわたっていた. 生前にウェルニッケ脳症と診断されたものは5症例中1例のみであった. 臨床症状としては, 意識障害が5症例中4例で確認され, うち2例は,「昏睡状態」を呈していた. また, 眼球運動障害と, 不安定歩行・運動失調がそれぞれ5例中2例にみられた. いわゆる3主徴 (ataxia, confusion, ophthalmoplegia) を揃えていたのは5例中2例であった. 臨床検査所見では, 白血球増多, 貧血が5例中3例, 低蛋白血症が5例中4例にみられた. 生前に血中 thiamine 値の測定された2症例では, いずれも正常値を示していた. 生前, アルコール常用者だったものは1例のみであり, 他はいずれも低栄養に関連して発症していた. 5例中4例までは, 発症時, ビタミンの不足した補液を受けていた.比較的容易に低栄養状態に陥り易い老年者において原因不明の意識障害を見た場合, 鑑別診断の1つにウェルニッケ脳症を加えて対処すべきであり, たとえ典型的な症状がなくとも直ちに thiamine の経静脈的投与を開始すべきである.