著者
杉浦 真一郎
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.497-521, 2003-06-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
5 1

本稿は,営利系事業所の進出が少ない農山村地域における介護保険制度下の訪問介護サービスに注目し,保険者たる行政と既存事業者としての社会福祉協議会の役割が目立つ中で,組織的特性の異なる複数のサービス事業所が併存する石川県穴水町の事例から,サービス供給実績の変化とその制度的背景を分析した.町内3事業所のうち,後発の農協系事業所が制度施行2年目からサービス供給実績を伸ばしたが,これは町役場との関係が密接な社会福祉協議会系事業所や,特別養護老人ホームなどを併設する社会福祉法人系事業所とは対照的に,連携する組織やサービス機能をほかに持たないことに起因している.訪問介護の利益率が一般に低水準である中で,この農協系事業所の事業構造は利用者特性の面からみても不安定であり,本事例からは介護保険事業者の特性について,従来の「既存/新規」および「営利/非営利」に加えて,「総合型/単独型」との観点が有効であることが示唆された.
著者
杉浦 真一郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.188-211, 2009-05-01 (Released:2011-08-25)
参考文献数
28
被引用文献数
5 3

介護保険に関して,近年の市町村合併は,旧自治体ごとの負担(保険料)を均一化する一方で受益(サービス給付)を必ずしも平準化できない点で地域的公正の観点から問題を生じさせている.本稿は,旧自治体別の介護保険について,新自治体となる合併地域全体との間の量的・質的差異を全国スケールで分析した.主な結果は次の通りである.①新自治体とのサービス給付水準の差異が顕著な旧自治体を抱える新自治体は概して非都市的な地域特性を多く含み,高齢者人口規模などからみた首位都市としての地位が相対的に高い旧自治体による編入合併が多い.②合併によって新自治体との間で著しい給付水準の差異を有する旧自治体は全国的に分布するが,特に県境地帯の山間部や離島など周辺性を有する地域に多い.③それらの旧自治体は合併前の数年間をみても事業特性に大きな変化がなく,合併後も受益と負担の不均衡による地域的公正の問題が新自治体内で存続する可能性が示唆される.