著者
久保田 健彦 冨田 尊志 濃野 要 阿部 大輔 清水 太郎 杉田 典子 金子 昇 根津 新 川島 昭浩 坪井 洋 佐々木 一 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.109-116, 2015 (Released:2015-05-07)
参考文献数
28

目的 : 超高齢社会の現代において, 咀嚼・会話・審美に不可欠な歯を喪失する最大の原因となっている歯周病を防ぎ健康増進を図ることは, 歯周病が糖尿病や直接死因につながる循環器・脳・呼吸器疾患などと密接に関係することからも国民にとって急務である. 本研究は, 抗炎症効果を有するホエイペプチド (WHP) 配合流動食摂取が臨床的歯周組織検査項目, 唾液および歯肉溝滲出液 (GCF) 中の生化学的マーカー・炎症性サイトカインレベルに及ぼす影響について調べたものである.  材料と方法 : 本研究は新潟大学倫理審査委員会の承認を得て, 新潟大学医歯学総合病院にて実施した. インフォームドコンセントが得られた36名の慢性歯周炎患者 (男性24名, 女性12名, 66.8±11.7歳) を対象とし, WHP摂取群 (n=18), Control群として汎用流動食 (Control) 摂取群 (n=18) に無作為に振り分けた. 実施方法は評価者盲検法とし, 摂取前と摂取4週間後に臨床検査としてPlaque Control Record (PCR), Gingival Index (GI), Probing Pocket Depth (PPD), Bleeding on Probing (BOP), Clinical Attachment Level (CAL) の測定, さらに生化学的検査として最深歯周ポケット部位よりGCFを採取し, 炎症性サイトカイン (TNF-α, IL-6) 量, Alanine Transaminase (ALT) 量, Asparate Transaminase (AST) 量, 唾液中遊離ヘモグロビン (f-Hb) 量を測定した. 群間比較にはMann-WhitneyのU検定, 群内比較にはWilcoxonの符号付き順位検定, 相関分析はPearsonの積率相関分析を用い, 有意水準は5%に設定した.  結果 : GCF中の生化学的パラメーターでは, TNF-α, IL-6はWHP群においてのみ有意に減少した. Control群では有意差は認められなかった. ALT, ASTは両群ともに有意差は認められなかった. 臨床パラメーターは両群ともにPCR, GI, BOPにおいて改善傾向が認められた. PCRの低下したControl群でのみ, 有意にGI, BOPが減少した. PPD, CALは両群ともに有意な変化はなかった. 唾液中のf-Hb量は両群ともに有意差は認められなかった.  結論 : WHP群, Control群ともに, 4週間の摂取により歯周病臨床パラメーターが改善されることが示された. 特に, GCF中のTNF-α, IL-6がWHP群でのみ有意に減少したことより, WHPに含まれるホエイペプチドがGCF局所での炎症性サイトカインレベルに影響を与えた可能性が示された.
著者
岡田 崇之 杉田 典子 大塚 明美 青木 由香 高橋 昌之 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.344-352, 2013-08-31 (Released:2017-04-28)

目的:歯周炎に対しスケーリング・ルートプレーニングを含む動的治療を行った後に残存したポケットに歯周病原細菌または炎症の継続が認められる場合,さらなる進行のリスクが高い.セルフケアとして,ブラッシングに薬剤を含む歯磨剤を併用し殺菌・消炎を図ることは,歯周炎の進行抑制に効果的と考えられる.歯磨剤ジェルコートFは,0.05%塩酸クロルヘキシジン,β-グリチルレチン酸,フッ化ナトリウム,ポリリン酸ナトリウムを含有している.今回,歯周治療後の残存歯周ポケットに対するジェルコートFの効果を調べた.材料と方法:対象は20歯以上を有する男女で,慢性歯周炎に対しスケーリング・ルートプレーニングを含む動的治療終了後1カ月以上経過し,2歯以上に6〜7mmの残存ポケットを有する20名とした.無作為化二重盲検法にて2群に分け実験群はジェルコートFを,コントロール群は塩酸クロルヘキシジン,β-グリチルレチン酸を除いたコントロール剤を使用した.残存ポケットを有する1歯を歯肉溝滲出液(GCF),ほかの1歯を細菌検査対象とし,GCF中のAST, ALT,縁下プラーク中のPorphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Tannerella forsythiaおよびTreponema denticolaを測定した.歯周病検査を行った1週後(0w)にGCFと縁下プラークを採取し,次いでポケット内に歯磨剤を注入した.患者は毎日歯磨剤を使用してブラッシングを行い,就寝前にリテーナーにて歯磨剤を10分間適用した.4週後,同様の検査を行い結果を解析した.成績:実験群,コントロール群とも有害事象は認められなかった.ベースラインにおいて年齢,男女比,ポケット深さ,細菌レベル,GCF成分の差はなかった.術前術後比較では,実験群のみ対象歯のPlaque Index (PlI)とGingival Index (GI)が減少した.それ以外に有意な変化はなかった.また,術前術後の変化量に群間差はなかった.年齢・性別の影響を調整した線形回帰分析では,GIのみジェルコートFの効果が認められた.結論:リテーナーとブラッシングを併用してジェルコートFを4週間使用した結果,歯周治療後の残存ポケットの歯周病原細菌レベルおよび歯肉溝滲出液成分に有意な変化は認められなかった.しかし,臨床所見における縁上プラークおよび歯肉の炎症を減少させる可能性が示唆された.
著者
杉田 典子 中曽根 直弘 花井 悠貴 高橋 昌之 伊藤 晴江 両角 俊哉 久保田 健彦 奥田 一博 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.219-228, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
24

目的 : 化学的プラークコントロール法としてグルコン酸クロルヘキシジン (CHG) 配合洗口液が効果的であるが, アレルギーなどの副作用が問題視されている. そこで今回, 塩酸クロルヘキシジン (CHH) と塩化セチルピリジニウム (CPC) を抗菌成分として配合した洗口液を開発し, 基本治療終了後の歯周炎患者が4週間使用した場合の口腔細菌に対する効果を評価した.  材料と方法 : 新潟大学医歯学総合病院歯周病科を受診中で, 20歯以上を有し歯周基本治療後5mm以上の歯周ポケットを1~7部位有する歯周炎患者30名を対象とした. 新洗口液 (CHH+CPC群), CHG配合のコンクールF (CHG群), 抗菌成分を含まないコントロール洗口液 (コントロール群) を使用する3群にランダムに各10名を割付け, 二重盲検法で比較した. ベースラインおよび使用4週後に唾液・舌苔・歯肉縁上プラークを採取し, 総菌数, 総レンサ球菌数, Porphyromonas gingivalisおよびStreptococcus mutansの菌数を測定した. またterminal restriction fragment length polymorphism (T-RFLP) 法による解析を行った.  成績 : いずれの洗口液でも有害事象は認められなかった. ベースライン (術前) と4週目を比較した結果, CHH+CPC群において唾液中総菌数とS. mutans数, 舌苔中総菌数, 縁上プラーク中総レンサ球菌数が有意に減少していた. CHG群においては, 縁上プラーク中総菌数の有意な減少が認められた. コントロール群では舌苔中総菌数および総レンサ球菌数が有意に減少していた. T-RFLP解析の結果, CHH+CPC群の唾液中において制限酵素Msp I切断断片から推定されるStreptococcus群, Hha I切断断片から推定されるStreptococcus・Eubacterium群, Parvimonas群およびPorphyromonas・Prevotella群が有意に減少していた. 縁上プラーク中の細菌については, Hha I切断断片から推定されるStreptococcus・Veillonella群がCHG群で有意に減少していた. その他に有意な変化は認められなかった.  結論 : これらの結果より, CHH+CPC配合洗口液はより安全に使用でき, CHG配合洗口液と同程度以上の抗菌効果をもつことが示唆された.