著者
杉谷 嘉則 山崎 裕一 長島 弘三
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1980, no.1, pp.28-32, 1980-01-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

サマルスキー石は希土類元素およびニオブ,タンタルを主成分とする酸化物鉱物の一種であるが,ほとんどすぺての試料は,その含有するウランなどの放射線のためにメタミクト化している。さらに,通常成分として上記以外にも多数の元素が含まれている。このような事情により,サマルスキー石は古くから知られている鉱物であるにもかかわらず,その組成,構造などに関して確定的な結論が得られていない。このサマルスキー石に関し,過去の文献データと結晶化学的考察により,組成としてはAB206型(A=Y,ランタノイド元素,U,Caなど,B=Nb,Ta,Fe+3,Tiなど)が妥当であること,また構造に関しては,他の鉱物(コルンブ石,鉄マンガン重石,ユークセン石,イクシオライト)との関連からα-PbO2型構造を基本にもち,かつ構造中でこれらの金属元素がAおよびBの位置を無秩序に占めているものと推定した。この考察に基づき,含まれる成分をY,Ca,U,Nb,Fe,Tiにかぎって焼結法により合成実験を行なった。その結果,天然のサマルスキー石を加熱(1000℃)したものと類似構造をもつ化合物が得られた。天然のサマルスキー石にはカルシウム成分のとくに多いCa-samarskiteが報告されているが,これに対応する合成物も得ることができた。
著者
武井 尊也 杉谷 嘉則 天野 力 西本 右子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.903-908, 1996 (Released:2010-01-15)
参考文献数
11
被引用文献数
12 13

溶液のミクロ構造を解明するため,その比誘電率εrを共振周波数fRの変化を通じて測定する簡便な手法を提案した.測定方法の原理を示し,解析法の妥当性を検討した.アルコール水溶液では水のモル分率Xwの増加に従い, 共振周波数は低周波側へシフトしていくが,Xw=0.85付近で飛躍が生じ, それ以後濃度変化に依存せずほぼ一定となることが分かった.アルコール-アルコール混合溶液では, 溶液温度によって不連続的に共振周波数が変化しており,アルコール分子同士の会合状態の変化が生じていることを示唆している.本報で提案した簡便な装置で観測されるfRの変化,すなわちεrの変化は,溶液中での極性分子の分散あるいは会合状態の変化に鋭敏であり,溶液のミクロ構造を解明するのに有用な情報を与える可能性を示している.
著者
影島 一己 武井 尊也 杉谷 嘉則
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.237-243, 2006-04-05
参考文献数
18

高周波分光法を用いてエマルションの安定性評価を試みた.油/水(O/W)型エマルションに対する測定結果から,かくはん速度や保存温度が共振周波数の経時的な変化に影響を与えることが分かった.また共振周波数の高周波側へのシフトの挙動は,光学顕微鏡を用いた粒子径観察の結果とよい相関を示し,本法がエマルションの分離進行によって生じるクリーミングを鋭敏に検出していることが明らかになった.一方,W/O型エマルションや市販のエマルション製品に対する測定においても経時にともなう共振周波数の変化が観測された.このことから本法はO/W型エマルションだけではなく,W/O型エマルションや多成分系エマルションの安定性評価においても適用可能であることが明らかになった.
著者
杉谷 嘉則 影島 一己 西本 右子 天野 力
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

高周波分光法は、物質と水の相互作用の変化を鋭敏に捉えることを可能にする、われわれ独自の手法である。すなわち、物質の状態変化に伴う誘電率変化を共振周波数の変化として検出する手法である。また、エマルションとは、界面活性剤の力により、水中の油滴、逆に油中の水滴の形で一様に分散する系をいう。食品(牛乳)、化粧品(ヘアーオイルなど)、農薬、塗料、その他多くの産業分野に用いられている。これらエマルションは熱力学的に不安定な系である為、時間経過によりいずれ相分離を生じる(別の言い方では、劣化する)。これらの相分離過程を高周波分光法により観測することに成功した。実際には、多種類のエマルションを合成し、その劣化過程を高周波スペクトルのピーク位置の移動という形でとらえることができた。結果の一例を示すと、エマルション合成時に、界面活性剤の割合を多くしたものは、時間経過に対する劣化が緩やかに進行することが判明した。また、高温で保存したエマルションは、劣化がより速やかに進行することも判明した。これらは経験的には自明として知られていることであるが、目視や他法では観測し得ないような微小の変化も本法で鋭敏にとらえることができた。