著者
村上 多喜雄 松本 淳
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.719-745, 1994-10-25 (Released:2008-01-31)
参考文献数
38
被引用文献数
151 267

西部北太平洋における夏のモンスーン(WNPM)は、8月中ごろの最盛期には、東南アジアモンスーン(SEAM)と同程度かそれ以上に活発になる。これら2つの夏のモンスーン地域の境界は、OLRが190Wm-2以下になる両モンスーンの上昇域の間にあって、OLRが230Wm-2以上と比較的高く、相対的な好天域である南シナ海にある。主要な下降域は中部北太平洋にあり、そこでは太平洋高気圧の発散域の上層に、熱帯上部対流圏トラフの収束域が位置している。すなわち、29℃を超える世界でもっとも高い海水温域にあるWNPMの中心地域(北緯10-20度、東経130-150度)では、活発な対流活動が生じ、東経110度付近の南シナ海と、西経140度付近の中部北太平洋との間に、顕著な東西循環が起こっている。この東西循環の鉛直構造は、北緯10-20度付近ではバロクリニックで、東経150度以東では下層が偏東風、上層が偏西風となっており、以西ではこの逆となる。WNPMは、北緯10度から20度付近における海水温の東西コントラストと、北緯20-30度付近における、大陸-海洋間の東西の熱的コントラストの複合作用の結果として生じていると考えられる。WNPM域の極側には大きな大陸がないため、南北の熱的コントラストの影響は、二義的なものとなる。一方SEAMは、主に南北の海陸熱的コントラストによって駆動される、南北循環によって生じている。SEAMは10月初め以前に後退するのに対し、WNPMは29℃を超える高海水温が維持されているため、11月初めまで持続する。
著者
川村 隆一 村上 多喜雄
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.619-639, 1998-08-25
参考文献数
30
被引用文献数
10

赤外輝度温度、850hPa高度、風、気温、比湿データに調和解析を適用し、季節変化の長周期成分(第1から第3調和関数までの和)をLモード、残りの調和関数で表現される短周期成分をSモードと定義した。初夏の期間、Lモードはカムチャッカ半島-オホーツク海上のリッジと、中国北部(大陸の熱的低気圧の中心)から日本、さらに東方へ延びるトラフのブロッキング型循環パターンを示す。オホーツク海上の局所的なLモード高気圧セルの発達により、アリューシャン諸島付近から北日本へかけての下層東風偏差が強まる。この東風偏差と大陸の熱的低気圧の南東縁に沿った南西風偏差によって、日本付近で水蒸気収束を伴う強い低気圧性シアーが形成される。初夏にみられる東アジアと西部北太平洋との間の東西温度勾配の強化と関連した、Lモード下層トラフの発達は梅雨システムの形成に必要である。大陸スケールの熱的低気圧の発達に起因する、中国東岸に沿うLモード南西風は、モンスーン西風と中緯度偏西風をつなぐブリッジとなり、結果として南シナ海から中部北太平洋へ延びる対流圏下層の西風ダクトを生み出す。6月中旬の梅雨オンセット期には、対流起源のSモードonset cycloneが南シナ海上で発達し、ほぼ同時にSモードonset anticycloneがonset cycloneの北東側に組織化される。下層西風ダクト周辺のSモード擾乱の増幅が熱帯から日本南部へ、湿潤で温暖な空気の北向き移流をもたらしている。7月中旬までに、アジア大陸の熱的低気圧はそのピークに達し、関連して東南アジアの夏季モンスーンも最盛期が訪れる。7月下旬の梅雨明け頃は、大陸の熱的低気圧は地表面冷却により衰退し始めるが、Lモード太平洋高気圧は依然として北へ発達し、8月初めに最盛期を迎える。海陸間の東西温度勾配の弱化に伴い、日本付近のLモード下層トラフが消失し、一方では西太平洋モンスーン(WNPM)トラフが発達する。また、梅雨オンセットと同様に梅雨明け時にもSモード擾乱の発達がみられる。このように、大陸-海洋の熱的コントラストに関係する、Lモード循環の季節進行が、下層西風ダクト内および周辺のSモード擾乱の活動を強く規制している。そのメカニズムとして、西風ダクトがSモード擾乱の順圧ロスビー波の分散に対するwave guideとして働いている可能性や、水平シアーをもったLモード平均流の存在が、二つのモード間の順圧相互作用を通してSモード擾乱の発達と持続に重要な働きをしている可能性があげられる。いずれにしても、Lモード循環とSモード擾乱の複合効果が、梅雨オンセットや梅雨明けのようなローカルな気候学的イベントを非常に急速かつ劇的な変化にしていることに変わりはない。
著者
村上 多喜雄 松本 淳
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.719-745, 1994-10-25
被引用文献数
17

西部北太平洋における夏のモンスーン(WNPM)は、8月中ごろの最盛期には、東南アジアモンスーン(SEAM)と同程度かそれ以上に活発になる。これら2つの夏のモンスーン地域の境界は、OLRが190Wm^<-2>以下になる両モンスーンの上昇域の間にあって、OLRが230Wm^<-2>以上と比較的高く、相対的な好天域である南シナ海にある。主要な下降域は中部北太平洋にあり、そこでは太平洋高気圧の発散域の上層に、熱帯上部対流圏トラフの収束域が位置している。すなわち、29℃を超える世界でもっとも高い海水温域にあるWNPMの中心地域(北緯10-20度、東経130-150度)では、活発な対流活動が生じ、東経110度付近の南シナ海と、西経140度付近の中部北太平洋との間に、顕著な東西循環が起こっている。この東西循環の鉛直構造は、北緯10-20度付近ではバロクリニックで、東経150度以東では下層が偏東風、上層が偏西風となっており、以西ではこの逆となる。WNPMは、北緯10度から20度付近における海水温の東西コントラストと、北緯20-30度付近における、大陸-海洋間の東西の熱的コントラストの複合作用の結果として生じていると考えられる。WNPM域の極側には大きな大陸がないため、南北の熱的コントラストの影響は、二義的なものとなる。一方SEAMは、主に南北の海陸熱的コントラストによって駆動される、南北循環によって生じている。SEAMは10月初め以前に後退するのに対し、WNPMは29℃を超える高海水温が維持されているため、11月初めまで持続する。