著者
村瀬 嘉代子 柏女 霊峰 伊藤 研一
出版者
大正大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

われわれは幼児から成人にわたるライフサイクルの中で、(1)両親像、家族像がどのように形成され、成長変化していくか(2)そうした過程の中で変わらず根底にあるものは何かについて、調査研究を進めてきた。結果としていくつかの重要な知見を得た。第1は、年齢、性差を越えて存在する「厳父慈母」原型の存在、第2は発達の節目における両親像、家族像の変客、第3は両親像と適応との密接な関係である。さらに、両親像、家族像が混乱したり、十分に形成されないことが予想される養護施設の子どもを対象に調査研究を行った。(1)実父母の養育が十分とは言えない場合の両親像・家族像のありよう、(2)施設での養育が(1)をどう補い、変容し得るか(3)適応状態に(1)と(2)はどう影響するか、(4)今までの調査結果との比較検討、について新たな示唆が得られることを目的とした。施設は子供にとってみれば、家庭に相当するところであり、その場所への調査に行くことは極めて侵襲的となる危険があるため、方法論としては以前からの子供に対する方法論に加えて、いくつかの慎重な配慮をした。調査研究の結果、幼児被験者数が限られているため、はっきりとした発達傾向を見いだすことはできない。しかし事例の中には生後すぐに実母と分離していて、実親が両親像の形成にほとんど関与していないにもかかわらず、いわゆる典型的な「厳父慈母」的回答をした幼児がいた。小学生以上の場合、現実の生活状況に即した質問をしたため、実際の両親像については明らかにされない。しかし女性職員を通じて「ほめてくれる」「看病」「悲しい時慰めてくれる」体験をし、しかもそれを求めている姿が浮かび上がって来た。また理想の両親の関係として、厳父慈母とよき連携を上げている。このことは両親像や家族像の混乱が想定される場合でも(あるいは混乱があるからこそ)厳父慈母(特に慈母像)が中核に存在していると考えられる。