著者
狩野 武道 津川 律子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.168-178, 2011-06-30 (Released:2011-10-21)
参考文献数
39
被引用文献数
2 1

本研究の目的は, 大学生が示す無気力が, スチューデント・アパシー的無気力と抑うつ的無気力に分類可能かどうかを検討し, それぞれの特徴について考察することであった。大学生155名を分析対象とし, 全3回の縦断的質問紙調査を行った。用いた尺度は, 意欲低下領域尺度, 抑うつ気分を測定する項目, 抑うつの反応スタイル尺度の否定的考え込みと分析的考え込みであった。その結果, 持続的に学業に対して無気力を呈する群は, 持続的に抑うつを伴う群(抑うつ的無気力群)と伴わない群(スチューデント・アパシー的無気力群)に分類できることが示唆された。また, 抑うつ的になったときに否定的に考え込む傾向, 分析的に考え込む傾向において, 抑うつ的無気力群はともに高く, スチューデント・アパシー的無気力群はともに低いことが示された。これらの結果から, 無気力研究においてスチューデント・アパシー的無気力と抑うつ的無気力を区別する必要性が論じられ, また, 大学生の無気力に対する予防, 援助に関して考察された。
著者
狩野 武道 津川 律子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2-10, 2008-12-20 (Released:2011-03-02)
参考文献数
30
被引用文献数
3

大学生における無気力をスチューデント・アパシー的な無気力と抑うつ的な無気力に弁別することが可能かどうかを検討することを目的に, 大学生283人 (有効データ数233) を対象とし, 質問紙調査を集団で実施した。使用した尺度は, 対象及び活動領域別に意欲を問う項目, 自己意識尺度, 自己認識欲求尺度, アパシー傾向測定尺度, SDSであった。対象及び活動領域別に意欲を問う項目に対して因子分析を行い, その因子得点を使用してクラスター分析を行ったところ, 対人関係や娯楽に対して意欲低下を示す群, 生活全般に対して意欲低下を示す群, 学業に対して意欲低下を示す群, どの領域にも意欲低下が認められない群という4つの群が見出された。学業に対して意欲低下を示す群の特徴は, 抑うつ的ではない, 自分の内面について考えないなど, スチューデント・アパシーの特徴と一致するものが多く, この群はスチューデント・アパシー的な無気力を呈している群と考えられた。それに対し, 生活全般にわたって意欲低下を示した群は抑うつ傾向が認められ, 抑うつ的な無気力を呈している群と考えられた。このことから, 大学生における無気力は抑うつを伴うものと伴わないものとに分けられ, 前者をスチューデント・アパシー的な無気力, 後者を抑うつ的な無気力に区別できる可能性が示唆された。しかし, 後者の群においては従来の抑うつ理論と不一致な点が認められ, さらなる追研究が望まれた。
著者
北島 正人 水野 康弘 有木 永子 浅川 けい 津川 律子 張 賢徳 KITAJIMA Masato MIZUNO Yasuhiro ARIKI Nagako ASAKAWA Kei TSUGAWA Ritsuko CHO Yoshinori
出版者
秋田大学教育文化学部附属教育実践研究支援センター
雑誌
秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要 (ISSN:13449214)
巻号頁・発行日
no.36, pp.193-203, 2014-05-31

自殺のリスク評価の視点から、風景構成法(LMT)と、2つの心理検査との関連を検討した。研究1では、LMTの「構成の型」「色彩の程度および種類」と、自己評価式抑うつ性尺度(SDS)の総得点および第19項目(SDS_Q19)の希死念慮頻度得点との関連を検討した。研究2では、LMTの「構成の型」「色彩の程度および種類」と、精研式文章完成法テスト(SCT)の刺激語「自殺」および「死」への記述内容との関連を検討した。その結果、研究1では、LMTのアイテム「石」の彩色に「灰色」を用いた者が、「黒色」を使用した者や彩色しなかった者よりもSDS_Q19で高い希死念慮頻度を示した。単色で60%以上という高い出現率を占める「灰色」の選択には、希死念慮頻度の高い者と低い者の双方が含まれていたと推察され、結果の解釈には慎重を要すると考えられた。研究2では、LMTとSCTの2つの刺激語との間に有意な関連は見出されなかった。2つの研究を通じ、今後に向けて主に次のような課題が提出された。先行研究同様、本研究においてもLMTのアイテム彩色が自殺のリスク評価に関与することが示唆されたが、詳細な分析のためには、臨床群データだけでなく健常者データの蓄積が急務と考えられた。また、SCTに関しては、臨床実践に応用できる形で、なおかつ統計上も有用な群分けができる分類法をさらに工夫する必要があると考えられた。