著者
松多 信尚 石黒 聡 村瀬 雅之 陳 文山
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.247, 2011

台湾島はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界に位置し,フィリピン海プその収束速度は北西―南東方向に90 mm/yrと見積もられている(Sella et al., 2002).台東縦谷断層は地質学的なプレート境界と考えられ,その東側は付加した堆積岩や火山岩で構成された海岸山脈,西側は変成岩からなる中央山脈である. 台東縦谷断層は台東縦谷の東縁に位置する東側隆起の逆断層で,奇美断層付近を境に北部と南部に分けられる.南部は北から玉里断層,池上断層,利吉断層,利吉断層の西側に併走する鹿野断層などが分布する.これらの断層は逆断層がクリープしているとされ,GPSによる測地データ(Lee et al., 2003)だけでなく,水準測量(Matsuta et al., 2009)やクリープメータ(Angelier et al.,1986 etc)でそのクリープ運動の確認がなされ,20-30mm/yr程度の早さで短縮しているとされている.一方,台東縦谷断層は1951年にマグニチュード7前後の地震を立て続けに起こした.北部のセグメントは複数のトレンチ調査の結果,活動間隔が約170-210年程度と報告されている.南部のセグメントでは活動間隔が100年程度と推定され,2003年の成功地震が1951年の地震の次のイベントだと考えれば50年程度の可能性もあるとされる(Chen et al., 2007 ).玉里断層はクリープしている区間の北端に位置する.この断層は,1951年の地震では縦ずれ1.5m以上の地震断層として出現しているため,地表変形はクリープ運動と地震性変位の両方による.我々はこの断層を横断する30kmの測線で水準測量を2008年より毎年8月に実施し,玉里断層を挟む200mの区間で年間1.7cm,約1.5kmの区間で約3cmの隆起が2年間認められた.この運動が継続しているならば,過去30年間の累積変位量は1m近くなることが予想され,空中写真測量を用いた平面的な変位量の分布を得ることを試みた. 台湾における空中写真は最近ではほぼ毎年更新されている.我々は台湾大學所有の1978 年撮影の約2 万分の1 の縮尺の空中写真と2007 年撮影のほぼ同じ縮尺の空中写真を利用して航空写真測量を試みた.座標変換に用いるグランドコントロールポイント(GCP) は2007 年撮影の航空写真に関しては2009 年12 月に実測し,1978 年撮影の航空写真に関しては当時の三角点の測量記録を用いて補正した.それぞれの写真の座標を求めた後,ほぼ同じ位置の地形断面を測量し,地形断面を比較した. 我々は写真測量の誤差は絶対値では大きいが,地形断面上の相対誤差はより小さいと考え比較した. 我々は1978年の空中写真の同定に利用するGCPを得る必要があるが変位を受ける前の位置を実測することは出来ない.そこで,両年代に実測された三角点の座標差を利用して,1978年当時のGCPを推定した. まず,求めたいGCP点を三角点の近傍に見つけ,三角点とそのGCP点との相対位置は十分に小さく両者は同じ変位をしたと考え,2007年度の空中写真上で位置を計測した. 我々は空中写真判読から地形面を7段に分類し古い面からT1―T7とした.特に断層上盤側にはT3からT7までの5面が分布する.これらの地形の年代は不明であるが,堆積物の風化程度や赤色化の度合いなどから, T4面以下の離水年代は1万年前程度と推定される.対象地域南部の地域では断層運動に伴うと思われるバルジ状の地形が確認できるほか,分岐断層や逆向きの高角断層などがあり,複雑な断層トレースが認められる. その結果T4面はT7面に対して,変位が累積していること.逆向き断層についてはT4面で明瞭であるが,T7面では顕著でないことなどがわかった. 調査範囲北部の断面である,Line1-3は,30年間に断面図を比較すると上盤側が隆起していることが確認できた.一方南部の測線では,人工改変を除けばほぼ地形断面が重なり,北部と比較して,顕著な上下変位を認められない. これは写真測量の精度の問題か,変位量の分布に狭い範囲で地域差があるか今後検討が必要であり,新たに水準の測線を昨年設けた. 水準測量の測線はT7段丘上にある.この段丘面は台東縦谷断層と平行にブロードな背斜・向斜状の地形が認められる.この段丘を刻む東側から流れ出る支流は背斜軸を横断して先行谷化して本流と合流している.このことはこの背斜・向斜状の地形が変位地形である可能性が高い事を示す.この背斜・向斜構造は水準測量でも観測されており,普遍的な変形と考えられる.ただし,水準測量の結果は測線が構造と斜行しているため,断層形状の側方変化等を見ている可能性もあり,その検証のための新たな水準測線も昨年設けた.