著者
東山 薫 IMUTA Kana SLAUGHTER Virginia 北崎 充晃 板倉 昭二
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.114, no.440, pp.103-107, 2015-01-30

心の理論研究は,誤信念課題の通過年齢におけるメタ分析が行われるほど膨大なデータが揃った。その結果,最もデータ数の多い欧米を基準とするとオーストラリアの子どもはそれより早く,日本の子どもは最も通過が遅れることが明らかになった。Naito & Koyama(2006)は,日本語は心的状態語を明確には表現しないために心の理論の発達が遅れると指摘したが,各文化内における検証はなされていても,文化間において共通の文脈下で検証している実証研究はない。子どもの心の理論の発達には母親の言語使用が密接に関わっていることから大人の言語使用についての文化差を見ることが重要だと考えられる。欧米よりも通過が早いオーストラリア,そして最も遅れる日本の文化差の原因を言語使用から検討する。
著者
東山 薫
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.359-369, 2007-09-30

本研究では,Wellman & Liu (2004)の主張する多面的な"心の理論"の発達が,日本の子どもにおいても同じように見られるかを追試すると共に,誤答した子どもの説明を分析することによって,より詳細に日本の子どもにおける"心の理論"の発達を検討することにした。すなわち,誤信念課題において指摘されてきたような通過率の遅れがこの尺度でも見られるか否か,日本の子どもがWellmanらの結果と同じ順序で段階的に心の理解が進むか否か,誤答分析によって"心の理論"課題を誤る原因を明らかにすること,を目的とした。3〜6歳の子ども120名にWellmanらの多面的な"心の理論"課題を実施したところ,Wellmanらと同様に年齢と共に段1皆的な発達が見られたが,誤信念課題において従来指摘されてきたように,多面的な概念を含む"心の理論"課題においても,日本の子どもは通過率が低かった。誤答の説明を分析すると,4,5歳児の3割近くが信念課題をどのように考えたかうまく説明できない場合と,理解できていない場合とが含まれていると考えられた。最後に,Wellmanらの課題の可能性と今後の課題について論じた。
著者
東山 薫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.359-369, 2007-09-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
39
被引用文献数
8 5

本研究では, Wellman & Liu (2004) の主張する多面的な“心の理論”の発達が, 日本の子どもにおいても同じように見られるかを追試すると共に, 誤答した子どもの説明を分析することによって, より詳細に日本の子どもにおける“心の理論”の発達を検討することにした。すなわち, 誤信念課題において指摘されてきたような通過率の遅れがこの尺度でも見られるか否か, 日本の子どもがWellmanらの結果と同じ順序で段階的に心の理解が進むか否か, 誤答分析によって“心の理論”課題を誤る原因を明らかにすること, を目的とした。3~6歳の子ども120名にWellmanらの多面的な“心の理論”課題を実施したところ, Wellmanらと同様に年齢と共に段階的な発達が見られたが, 誤信念課題において従来指摘されてきたように, 多面的な概念を含む“心の理論”課題においても, 日本の子どもは通過率が低かった。誤答の説明を分析すると, 4, 5歳児の3割近くが信念課題をどのように考えたかうまく説明できない場合と, 理解できていない場合とが含まれていると考えられた。最後に, Wellmanらの課題の可能性と今後の課題について論じた。
著者
東山薫 IMUTA Kana# SLAUGHTER Virginia# 北崎充晃# 板倉昭二#
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問 題 心の理論(theory of mind)は,幼児を対象に主に誤信念課題を用いてその通過年齢について議論されてきた。そのデータが蓄積され,誤信念課題の成績に関するメタ分析が行われた。最もデータ数の多い欧米を基準とすると韓国の子どもは同じくらいの年齢で通過し,オーストラリアやカナダの子どもはそれより早く,日本やオーストリアの子どもは最も通過が遅れることが指摘された(Wellman, Cross,& Watson, 2001)。この通過年齢における文化差については,“個人主義vs.集団主義”理論がよく引用される(Markus & Kitayama, 1991)。西洋は個人主義であるため,誤信念課題のように自分と他者の視点を切り離した課題に関して,集団主義である東洋の子どもと比べて早いうちから通過できるというのである。しかし,同じ集団主義である韓国の子どもは西洋の子どもと同じくらい年齢で誤信念課題を通過できると報告されているため,個人主義vs.集団主義理論では説明がつかないと考えられる。そして,これまで個人主義vs.集団主義の観点から心の理論の文化差を検討した実証研究はない。文化とは“ヒトの生活を媒介する人工物の集合で,多くは世代を超えて共有されるもの”(波多野・高橋, 2003)とあるように,子どもの心の理論の文化差を論じる際に大人の文化差を考えることが重要である。そこで本研究では,西洋の子どもよりも早く誤信念課題を通過できるオーストラリアと西洋よりもかなり通過が遅れる日本の大学生における個人主義もしくは集団主義の程度と心の理論の成績との関連を見ることで文化差を説明できるか否かを明らかにすることを目的とする。方 法1.調査対象者:日本人大学生334名とオーストラリア人大学生131名を対象とした。2.調査内容:(1)7種からなる心の理論課題(東山,2011; Wellman & Liu, 2004))を実施した。すなわち,①自分と他者の異なる欲求の理解,②自分と他者の異なる信念の理解,③自分と他者の異なる知識の理解,④予期せぬ中身課題タイプの誤信念の理解,⑤位置移動課題タイプの誤信念の理解,⑥自分と他者の異なる信念と感情の理解,⑦他者の隠された感情の理解に関する課題である。日本の大学生には質問紙もしくはwebで回答できる形式を用い,オーストラリアでは質問紙で回答を求めた。ターゲット質問は他者の隠された感情の理解課題で2問,他の6課題は1問ずつ計8問であるため合計点8点満点となった。また,記憶質問も含めると合計14点満点となった。(2)相互独立・相互協調的自己観尺度(木内,1995)を用いて個人主義が集団主義かの得点を算出した。この尺度は16問からなり,得点が高いほど集団主義の傾向が強く,64点満点であった。結 果1.心の理論課題得点 8点満点での日本人の平均は7.60点(レンジ4-8,SD=.73)でオーストラリア人は7.76点(レンジ6-8,SD=.50)であった。14点満点での日本人の平均は12.91点(レンジ8-14,SD=.99)でオーストラリア人は13.02点(レンジ10-14,SD=.75)であった。8点満点においてのみ,日本人よりもオーストラリア人の方が得点が有意に高かった(t(463)=2.23, p<.05)。2.個人主義vs.集団主義得点 日本人の平均は44.34点(レンジ16-64,SD=7.78)でオーストラリア人は33.63点(レンジ21-55,SD=6.84)であった。オーストラリア人よりも日本人の方が集団主義傾向が強かった(t(463)=9.89, p<.001)。3.心の理論課題と集団主義との関連 日本人における8点満点の心の理論課題と集団主義得点の相関は認められず(r=.08, n.s.),14点満点の心の理論課題と集団主義得点には有意な正の相関が認められた(r=.14, p<.05.)。オーストラリア人においては8点満点,および14点満点のいずれの心の理論課題とも集団主義得点と有意な相関は認められなかった(それぞれr=.01, n.s.; r=-.01, n.s)。考 察 オーストラリアと日本では確かに日本の方が集団主義傾向が強かったが,心の理論の文化差を“個人主義vs.集団主義”でを説明することはできなかった。今後は,同じ集団主義である韓国でも同様の検討をする必要があるだろう。謝辞:本研究は,科研費若手研究(B)15K21577の助成を受けて行っている。また,オーストラリアのデータはクイーンズランド大学のスローター先生に協力を得て収集してもらった。