- 著者
-
松元 哲
- 出版者
- 農業技術研究機構野菜茶業研究所
- 巻号頁・発行日
- no.5, pp.63-111, 2006 (Released:2011-03-05)
チャの遺伝資源の分類,評価技術の向上を目指して,phenylalanine ammonia-lyase (PAL) cDNAを単離し,PALをプローブに用いたRFLP解析の多型情報に基づいて,種間雑種であるチャツバキ,アッサム変種(Camellia sinensis var. assamica)と中国変種(Camellia sinensis var. sinensis)を解析した。チャと他の植物間でPALの塩基配列を比較したところ,セリ科,マメ科,バラ科植物などと相同性が高く,植物分類学上遠縁の単子葉植物のラン科やイネ科植物とは相同性が低く,さらに類縁関係が離れている裸子植物のマツとは最も低い相同性であった。植物種間のPALの配列の違いは,植物種の進化上の類縁関係を反映していた。PALは,多くの植物において多重遺伝子族を形成していることが知られているが,チャのPALは単一遺伝子としての存在が考えられ,日本の緑茶用品種では3種類の複対立遺伝子(A,B,D)が見出され,品種を5種類(AA,AB,AD,BD,DD)に分類することができた。BB型に該当する品種はなかった。DNA解析を目的とした,海外や国内でも遠方の採集ではDNA抽出操作までに試料の保存が必要である。実験試料の室温での保存法を検討したところ,エタノール中に葉を1週間程度保存することにより,RFLP解析に使用可能なレベルのDNAが抽出可能であった。さらに本保存法はDNA抽出がより難易なツバキ,チャツバキでも応用可能であった。PAL cDNAを用いたRFLP解析によりチャとツバキの種間雑種であるチャツバキ1~9号は,種子親である緑茶用品種‘さやまかおり’由来の断片とツバキ由来と推定される多型を有した。PALは種間雑種の確認においても有用なDNAマーカーであった。