著者
安田 雅俊 松尾 公則
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.35-41, 2015 (Released:2015-07-04)
参考文献数
31
被引用文献数
2 1

九州北部の照葉樹林(長崎県多良山系,標高400 m)において,巣箱と自動撮影カメラを組み合わせた方法(巣箱自動撮影法)で,ヤマネGlirulus japonicusの活動周期を2011年10月から2014年3月までの30ヶ月間連続的に調査した.ヤマネは冬の一時期(12月中旬あるいは1月上旬から2月下旬までの2ヶ月以上3ヶ月未満)を除き,ほぼ通年,高頻度に撮影された.回帰式を用いて最寄りの気象観測所の旬平均気温から調査地の旬平均気温を推定することで,冬眠時期の気温を推定することができた.巣箱自動撮影法は,本種の冬眠の研究だけでなく,野生個体の日周活動の研究にも利用できる有効なツールであることが示された.
著者
大庭 伸也 松尾 公則 高木 正洋
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第63回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.49, 2011 (Released:2014-12-26)

休耕田を利用したビオトープは,水田耕作を辞めたために生息地が失われた水生昆虫や魚類,両生類など様々な水辺の生き物に新たな生息地を提供し,生き物観察会や体験学習など環境教育の場としても注目されている.しかし,ビオトープの造成は水田に類似した環境を創出するため,元来,水田を繁殖地としていた病原媒介蚊類に新たな繁殖地を提供することも意味するが,ビオトープから発生する蚊に関する研究はこれまでに全くなされていない.本講演では,ビオトープとその近隣の水田地帯の蚊類とその他の水生昆虫を中心に比較調査を行い,病原媒介蚊の繁殖地としてのビオトープについて考察する.長崎市相川町の休耕田ビオトープ(以下,ビオトープ)と比較対象として,ビオトープから最も近隣の水田地帯を調査地として選定とした.2009年4月から10月にかけて原則的に月に1度の頻度で調査を実施し,採集されたカ科の幼虫(ボウフラ)とその他の水生生物を可能な限り同定した. 水田地帯にみられるボウフラはビオトープにおいて全種が確認された.これは病原媒介蚊が水田と同じようにビオトープを繁殖地として利用していることを示唆している.しかし,ボウフラは水田よりも明らかにビオトープの方で少なく,低密度で推移することが分かった.その理由として考えられるのがボウフラの天敵水生昆虫(以下,天敵)の密度の違いである.天敵の密度は水田よりもビオトープの方で高く,安定していた.また,天敵の代替餌(カ科以外の双翅目とカゲロウ目の幼虫)の密度もビオトープの方で常に高いことが分かった.ビオトープでは豊富な代替餌が存在するため,ボウフラが少ない時期でもそれらが天敵の餌となり,天敵の密度低下が起こらないと考えられる.以上から,ビオトープは病原媒介蚊の発生源となりうるが,豊富で多様な天敵の存在により,水田よりもボウフラの密度が低く,突発的な密度上昇が起こりにくいことが示唆された.