著者
伊藤 秀三 山本 進一 中西 こずえ
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

龍良山の照葉樹林は海抜120mから山頂(海抜560m)に及び、面積は約100haである。海抜350m以下はスダジイ/イスノキ林、上方はアカガシ林である。調査項目は次の通り。1)スダジイ/イスノキ林に面積4haの永久方形区を設定し、胸高直径5cm以上の木本の生育位置、種別、胸高直径の測定、2)頂上に達する全長940m、幅10mのベルトトランセクトを設定し上記と同様の測定、3)低地から山頂まで、林冠木から林床までの林冠ギャップを除いた群落組成の調査、4)林冠ギャップ部位の群落組成の調査、5)林冠ギャップ部位のコケ植物の調査、6)ギャップ部位における樹木実生の生長の測定。下記の結果を得た。1)林冠ギャップは低地のスダジイ/イスノキ林に集中し、ギャップの大きさは5〜20mで、5m四方のメッシュ総数1600個のうちギャップは274個で森林面積の17.1%に達した。2)胸高直径分布では、二山型(スダジイ)、逆J型(イスノキ、サカキ、ヤブツバキ等)、正規型(ウラジロガシ)があり、全生存木では逆J型であった。3)低地〜山頂の植生傾度において、高木、低木、草本個体直群すべてにおいて海抜350ー400mで急激な組成の交替があり、種類密度は不変化、種多様度は低下した。4)ギャップ部位と非ギャップ部位の林床植生の比較により、次のギャップ指標植物(木本)が明らかとなった(出現頻度の高い順に)。イイギリ、アカメガシワ、サルナシ、カラスザンショウ、ハゼノキ、カジノキ、オオクマヤナギ。またギャップ部位で実生密度が高くなる照葉樹林要素はスダジイとカクレミノである。5)ギャップ指標のコケ植物の上位5種は、ホソバオキナゴケ、カタシロゴケ、トサヒラゴケ、エダウロコゴケモドキ、ツクシナギモドキ。6)ギャップ部位における実生の直径と高さの相対生長関係では、生長係数が高い上位5種は次の通り。ウラギンツルグミ、オガタマノキ、カラスザンションウ、カジノキ、クロキ。
著者
中西 こずえ 北沢 右二
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.425-434, 1982-12-01

北九州市の人為による生態系の破壊と再生の系列に沿って6種の生態系型を調査地に選び蘇苔類の種類組成, 常在度, 被度を調べて比較研究した. 種数は産業医科大学構内のコンクリート舗装路の割れ目(2種), 低木の植込み(4種), 平坦地の芝生(7種), 斜面の芝生(12種), 構内の二次林(18種), 遠賀町のシイ自然林(23種)の順に増加した. 苔類は二次林(3種)と自然林(10種)のみに出現した. 舗装路の割れ目にはギンゴケ, ホソウリゴケが進入し, 植込みと芝生にはそれ以外にハリガネゴケ, ヤノウエノアカゴケ, ツチノウエノコゴケ, ネジクチゴケなどがみられる. これらは群落遷移における先駆的な種類であると共に, 大気汚染などの人為影響にもよく耐えうる. 芝生では平坦地よりも, 特に北向きの斜面に種数, 量とも多い. シイ自然林の蘇苔類はその大部分が山地など人為影響の最も少ない地域に出現する種類である. 産業医大構内では, 残存二次林の内に自然林との共通種が6種あったが, それ以外の地域には, シイ自然林との共通種は全く出現していない.