- 著者
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野末 琢馬
高橋 健太
松山 友美
飯嶋 美帆
渡邊 晶規
小島 聖
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.0569, 2014 (Released:2014-05-09)
【はじめに,目的】ストレッチは可動域の拡大や組織の柔軟性向上,疲労回復効果などが報告されており,理学療法の現場においても多用されている。近年,ストレッチが柔軟性に与える影響だけでなく,筋力にも影響を及ぼすとした報告も散見される。Joke(2007)らは10週間週3回のセルフストレッチ(自動ストレッチ)を継続して実施したところ,発揮筋力が増大したと報告している。ストレッチによる筋力の増大が,他動的なストレッチにおいても得られるとすれば,身体を自由に動かすことが困難で,筋力増強運動はもちろん,自動ストレッチができない対象者の筋力の維持・向上に大変有用であると考えられた。そこで本研究では,長期的な自動および他動ストレッチが,筋力にどのような影響を及ぼすか検討することを目的とした。【方法】被験者は健常学生48名(男性24名,女性24名,平均年齢21.3±0.9歳)とし,男女8名ずつ16名をコントロール群,他動ストレッチ群,自動ストレッチ群の3群に振り分けた。他動ストレッチ群は週に3回,一日20分(各筋10分)の他動ストレッチを受け,自動ストレッチ群は同条件で自動運動によるストレッチを実施した。対象筋は両群とも大腿直筋とハムストリングスとし,介入期間は4週間とした。ストレッチ強度は被験者が強い痛みを感じる直前の心地よい痛みが伴う程度とした。測定項目は柔軟性の指標として下肢伸展拳上角度(以下SLR角度)と殿床距離を,筋力の指標として膝関節90°屈曲位の角度で膝伸展・屈曲の最大等尺性筋力を測定した。測定は4週間の介入前後の2回行った。測定結果は,それぞれの項目で変化率(%)を算出した。変化率は(4週間後測定値)/(初回測定値)×100とした。群間の比較には一元配置分散分析を実施し,多重比較検定にはTukey法を用いた。有意水準は5%とし,統計ソフトにはR2.8.1を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本学の医学研究倫理委員会の承認を得て行った。被験者には事前に研究内容について文書および口頭で説明し,同意が得られた場合にのみ実施した。【結果】膝伸展筋力の変化率はコントロール群で95.6±8.7%,他動ストレッチ群で115.2±21.2%,自動ストレッチ群で102.9±10.0%であった。コントロール群と他動ストレッチ群において有意な差を認めた。膝屈曲筋力,SLR角度,殿床距離に関してはいずれも各群間で有意差を認めなかった。【考察】本研究結果から,長期的な他動ストレッチにより膝伸展筋力の筋力増強効果が得られることが示唆された。筋にストレッチなどの力学的な刺激を加えることで筋肥大に関与する筋サテライト細胞や成長因子が増加し活性化され,筋力増強効果が発現するとされている(川田ら;2013)。本研究では,ストレッチによる,SLR角度や殿床距離の変化は見られなかったが,長期的なストレッチによる機械的刺激そのものが,上記に述べた効果に貢献し,筋力増強効果が得られたと推察される。膝屈曲筋力において筋力増強効果を認めなかった点について,両主動作筋の筋線維組成の相違が原因と考えられた。大腿四頭筋はTypeII線維が多いのに対し,ハムストリングスはTypeI線維が多く(Johnsonら;1973),筋肥大にはTypeII線維がより適しているとされている(幸田;1994)ことが影響したと考えられた。自動ストレッチによって筋力増強効果を得られなかったことに関しては,自己の力を用いて行うため,他動ストレッチに比べて筋を十分に伸張することができず,伸張刺激が不足したためと推察された。【理学療法学研究としての意義】他動ストレッチを長期的に行うことで筋力増強効果を得られる可能性を示唆した。他動的なストレッチが筋力にどのような影響を及ぼすのか検討した報告はこれまでになく,新規的な試みだと言える。他動的なストレッチを一定期間継続することで筋力の維持・向上に寄与することが明らかとなれば高負荷のトレーニングが適応とならない患者や,自分で身体を動かすことのできない患者にとって有用である。