著者
吉良 潤一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

多発性硬化症(MS)は不特定のウイルス感染を契機に疾患感受性のある固体で髄鞘抗原を標的とした自己免疫機序により発病するとされる。この疾患感受性を規定するものとして、HLAクラスII抗原がある。コーカシア系白人のMSはHLA-DRB1^*1501と最も強い相関を示すが、日本人のMSでは特定のHLAとの有意な相関は証明されていなかった。私どもは日本人MS患者90名を臨床症候からみた主病巣が視神経と脊髄に限られるアジア型MS44名と、大脳・小脳などそれ以外の中枢神経系にも病巣を認める西洋型MS46名に大別して、HLAを検索した。日本人でも西洋型MSはHLA-DRB1^*1501と有意な相関があった。一方、アジア型MSはHLA-DPB1´^*0501とのみ有意な相関(88.6%対63.0%、補正後P値=0.03、relative risk=4.6)を示した。アジア型MSは西洋型MSに比し、(1)発症年齢が高い、(2)女性に多い、(3)高度の視神経・脊髄障害を呈する、(4)脳MRI上の病巣が極めて少ない、(5)脊髄MRIでの異常検出頻度が高い、(6)髄液で高度の細胞、蛋白増加などの特徴を示した。したがって。アジア型MSは西洋型MSとは免疫遺伝学的な背景も臨床像も著しく異なることから、独立した一疾患単位と考える。もし他人種でも視神経脊髄型MSとHLA-DPB1^*0501との有意な相関が証明されたならば、この病型はDPB1^*0501関連視神経脊髄炎と呼ぶのが妥当と考える。さらに、MS患者63名を含む各種神経疾患患者250名と健常成人40名について血清全IgE値、アレルゲン特異的IgE値、ヘルパーT細胞内IFNγ/IL-4比(これが高いほどTh1優位)を測定した。その結果、アジア型MS血清全IgE値、アレルゲン特異的IgE陽性率が有意に低い一方、IFNγ/IL-4は有意に高く、ヘルパーT細胞の中でもIFNγを主として産生するTh1細胞優位と考えられた。以上より、アジア型MSは何らかの感染性因子をトリガーとして引き起こされるHLA-DPB1^*0501分子拘束性のTh1 diseaseがその本態あると考える。
著者
吉良 潤一
出版者
日本炎症・再生医学会
雑誌
炎症 (ISSN:03894290)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.137-144, 2000-03-29 (Released:2010-04-12)
参考文献数
8
被引用文献数
2 1

We recently reported the occurrence of myelitis in adults with atopic dermatitis (AD) . In order to clarify the clinical features of myelitis with atopy, we retrospectively studied 68 consecutive patients with acute or subacute myelitis diagnosed in Kyushu University Hospital during the past 20 years. Of 40 patients with myelitis seen between 1994 and 1998, 19 (48%) had either AD or bronchial asthma (BA), while 2 of 28 (7%) myelitic patients treated between 1979 and 1993 did. Of the 40 patients with myelitis diagnosed between 1994 and 1998, 29 (73%) had hyperlgEaemia and 32 (80%) had mite antigen-specific IgE, while of 82 healthy controls and 43 patients with neurodegenerative disorders, 21% and 23% had hyperlgEaemia and 40% and 32% had mite antigen-specific IgE respectively. Seventeen myelitic patients with AD showed an involvement of primarily the posterior column of the spinal cord and paresthesia/dysesthesia in all four limbs, whereas 3 patients with BA, including 2 adults, showed most common involvement of the anterior horn cells with muscle weakness and atrophy following acute asthmatic attacks. In addition, 12 myelitic patients who had hyperlgEaemia and IgE antibodies to mite antigens but neither AD nor BA also showed partial involvement of the spinal cord. Among these myelitis patients with atopy, pleocytosis in the cerebrospinal fluid was rare, peripheral blood eosinophilia was frequent and corticosteroids were less beneficial. These findings suggest an emergence of myelitis associated with atopy in Japan.
著者
吉良 潤一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.5, pp.894-904, 2016-05-10 (Released:2017-05-10)
参考文献数
40

多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は,若年成人を侵す神経難病では最も多く,中枢神経髄鞘を標的とする自己免疫疾患と考えられているが,証明はできていない.近年,再発や新規病巣の出現を抑制できる疾患修飾薬が次々と開発され,日本でも4種類が臨床応用されるようになった.最初の疾患修飾薬であるインターフェロンベータ(interferon beta:IFNβ)は多面的な作用機序を有し,再発抑制は30%程度に過ぎなかった.しかし,最近では切れ味のよい分子標的薬が開発され,顕著に再発は抑えられるようになった.それでもなお,障害の慢性的な進行を抑制できると証明された疾患修飾薬は開発されておらず,大きな課題として残されている.
著者
藤井 敬之 山﨑 亮 宮地 佑希野 飯沼 今日子 吉良 潤一
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.163-168, 2021 (Released:2021-04-15)
参考文献数
26

神経障害性疼痛は,様々な病態を含む難治性疼痛のひとつである.近年,自己抗体が体性感覚神経系の抗原に直接結合し,疼痛を誘導する「自己抗体介在性神経障害性疼痛」といった疾患概念が提唱されるようになった.私たちは,神経障害性疼痛患者の一部において,後根神経節と三叉神経節の小型ニューロンに特異的に結合する自己抗体である抗Plexin D1抗体が存在することを世界に先駆けて発見した.抗Plexin D1抗体陽性患者では,灼熱痛や腫脹・発赤といった症状がみられるが,免疫治療により疼痛の緩和が得られており,抗Plexin D1抗体は自己抗体介在性神経障害性疼痛の新規原因抗体のひとつと考えられた.
著者
吉良 潤一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.93, no.5, pp.1017-1025, 2004-05-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1

アレルギー性疾患に伴う神経障害としては,全身性血管炎の一環として多発性単神経炎を呈するChurg-Strauss症候群がよく知られている.本症候群では,まれに脳出血や脳梗塞を合併する以外には中枢神経が侵されることはない.このように,従来,アレルギー性疾患と中枢神経障害の関連は考えられていなかった.ところが,我々はアトピー性皮膚炎患者で頸髄に好発する特異な病像を呈する脊髄炎の存在に気づいた.本症は四肢の異常感覚(ジンジン感)を主徴とし, MRIでも頸髄後索寄りに病巣がみられる.臨床的にもMRI上の病巣においても長く存続するのが特徴である.脊髄病理は,好酸球性炎症で軸索も髄鞘も傷害される.我々はアトピー素因を背景にして起こる脊髄炎との意で,アトピー性脊髄炎との病名を提唱している.本症の発見を契機として,頸髄前角運動ニューロンを侵す平山病と気道アレルギーの関連が明らかにされるなど,アトピー素因と脊髄障害の関連を示す成績が次第に蓄積されつつある.
著者
稲盛 真人 土井 光 立石 貴久 松岡 健 岩城 徹 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.27-31, 2009 (Released:2009-02-12)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

症例は59歳の女性である.数年にわたる右側頭部痛のため当科を受診した.右側頭部に分枝状の圧痛をともなう索状腫瘤を触知し側頭動脈炎をうたがった.しかし,頭部MRIでは右側頭部皮下に多発性の結節を,超音波では低エコー域をともなう血流のない分枝状,索状腫瘤をみとめた.最終的に,腫瘤生検にて右耳介側頭神経に発症した孤発性神経線維腫と診断した.腫瘍は経過観察とし,疼痛は薬物療法にて著明に改善した.頭蓋外皮下組織に孤発性に発生した神経線維腫はまれであり,側頭動脈炎との鑑別や,三叉神経痛様の疼痛の原因として考慮する必要がある.
著者
松山 友美 笹ヶ迫 直一 小池 明広 松浦 理城 古賀 孝臣 川尻 真知 大八木 保政 岩城 徹 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.249-254, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
21
被引用文献数
15 14

症例は63歳の男性である.1998年右手脱力,翌年に左手脱力が出現し,徐々に進行した.2003年首下がり,2004年11月下肢脱力が出現した.臨床的には進行性の下位運動ニューロン症状が主体であった.2005年2月嚥下性肺炎で緊急入院した.入院9日後気管切開,同13日後心電図モニター上ST上昇,特徴的心エコー所見からたこつぼ型心筋症と診断した.循環管理をおこない一旦小康状態になるもふたたび血圧低下し,治療に反応せず入院37日後死亡した.剖検上心筋に梗塞巣はなく,心尖部・心基部のびまん性心筋変性と線維化をみとめたが死因は確定できなかった.神経病理学的には筋萎縮性側索硬化症(ALS)の所見であった.ALSでたこつぼ型心筋症を合併した例のはじめての剖検報告である.
著者
齋藤 万有 林 信太郎 鎌田 崇嗣 村井 弘之 尾本 雅俊 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.10, pp.753-758, 2015 (Released:2015-10-16)
参考文献数
16

症例は45歳女性.38歳より右手指の伸展障害が出現,その後数年かけて左側,次いで右側の下垂足が出現した.腱反射は右上肢と両下肢で減弱し,左下肢遠位部に軽度の異常感覚を認めた.神経伝導検査は軸索障害パターン,針筋電図検査で慢性神経原性所見を認めた.血清抗SS-A抗体と唾液腺病理所見が陽性.腓腹神経生検では神経束内の有髄神経線維脱落の分布に差異があり小血管周囲に炎症細胞浸潤を認めた.シェーグレン症候群に伴う多発性単神経炎と診断,免疫療法を行い一部の筋力に改善がみられた.本例が年余に亘る緩徐進行性の運動優位多発性単神経障害を示した点は,同症候群に合併する末梢神経障害として特異である.

1 0 0 0 OA 3.狂牛病

著者
吉良 潤一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.86, no.11, pp.2028-2032, 1997-11-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
8

狂牛病は正しくは牛海綿状脳症bovine spongiform encephalopathy (BSE)といい,プリオン病の一型である. 1985年以降英国で多発し, 14万頭を超えるBSEがみつかっている.これは英国では羊にスクレーピーというプリオン病が以前から蔓延しているが,その羊の内臓や脳,骨などを蛋白性飼料として牛に用いたため,スクレーピーが種の壁を超えて牛に伝播したと考えられている.しかも, 1994年以降英国では10例を超える若年発症のCreutzfeldt-Jakob病(CJD)患者がみつかっている.これらの患者は10~30歳代の発症で通常より経過が長く,脳波上も病理学的所見も孤発性のCJDとは異なっており,新変異型CJDと呼ばれている.食物連鎖を通じてBSEがヒトに伝播し新変異型CJDとなった可能性が示唆されている.
著者
吉良 潤一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.95, no.7, pp.1255-1259, 2006-07-10 (Released:2009-03-27)
参考文献数
7

寄生虫感染症はわが国では著明に減少したため, 過去のものとみられがちである. しかし, 現在でも寄生虫感染症は散発しており, 近年では一部の食品媒介性寄生虫感染症はむしろ増加傾向を示している. 中枢神経系を侵す寄生虫性疾患のうち, 本稿では, そのトピックスとして, ブタ回虫性脊髄炎, イヌ回虫性脊髄炎について自験例を中心に紹介した. これらは, ブタ回虫, イヌ回虫の幼虫が諸臓器に迷入して障害を起こす (visceral larva migrans). 寄生虫性脊髄炎では, 全身症状を欠く場合や末梢血で好酸球増多を欠く場合があり, 非圧迫性ミエロパチーの鑑別診断上重要である. 血清, 髄液の抗寄生虫抗体の測定により容易に診断でき, Albendazoleなどの抗寄生虫薬投与により治癒することから, 現代日本でも忘れてはならない寄生虫性神経感染症といえる.
著者
横山 淳 山口 浩雄 重藤 寛史 内海 健 村井 弘之 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
pp.cn-000834, (Released:2016-03-08)
参考文献数
10
被引用文献数
4 8

症例は24歳の男性.夜間飲酒した翌朝に痙攣を認め当院救急部に搬送された.到着後に痙攣重積を呈して人工呼吸器管理となった.脳幹反射の異常や病的反射,髄膜刺激徴候は認めなかった.頭部MRIの拡散強調画像で異常信号はなく,左後頭葉に陳旧性梗塞様の所見を認めた.入院直後より横紋筋融解症による高CK血症と急性腎不全を呈し持続血液透析濾過法を開始した.髄液中L/P比の著明な増加よりミトコンドリア病を疑い,末梢血にてミトコンドリアDNAのA3243G変異(ヘテロプラスミー20%)が判明しmitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes(MELAS)と診断した.本症例はMELASとしては非典型的な経過を辿ったため貴重な症例と考えられた.
著者
清水 幹人 甲田 亨 中辻 裕司 緒方 英紀 吉良 潤一 望月 秀樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.41-44, 2017 (Released:2017-01-31)
参考文献数
8
被引用文献数
4 5

症例は21歳男性である.2015年4月頃両側足趾のしびれで初発し,6月下旬に歩行障害が出現,8月には高度な姿勢時振戦を認めた.電気生理検査では脱髄性末梢神経障害を認めた.また頭部MRIで複数の小病変を認め,抗neurofascin 155(NF155)抗体が陽性であったため中枢末梢連合脱髄症と診断した.免疫グロブリン大量静注療法,ステロイドパルス療法の効果は軽微であったが,単純血漿交換療法では症状の改善と抗体価の低下を認めた.近年,中枢末梢連合脱髄症と抗NF155抗体との関連が報告されており文献的考察を加えて報告する.
著者
迫田 礼子 山下 謙一郎 林田 光正 岩本 幸英 山崎 亮 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.180-183, 2017 (Released:2017-04-28)
参考文献数
10
被引用文献数
2 7

症例は64歳男性である.1998年に頭部を打撲し慢性硬膜下血腫を来した既往がある.2000年から頭痛,ふらつき,聴力低下が出現し緩徐に増悪した.2011年,他院精査で血性髄液を認め,MRIでT2/T2*強調画像にて脳・脊髄表面に沿った低信号病変を認めた.脳表ヘモジデリン沈着症と診断されるも出血源は不明で,止血剤も無効であった.2015年当科受診時,水平性注視方向性眼振,両側高度感音性難聴,四肢・体幹失調を認め,MRIではCISS法にてTh2~3レベル硬膜前面に欠損を認めた.硬膜欠損に対して硬膜欠損閉鎖術を行ったところ,血性髄液の改善を認め,術後頭痛,失調の改善を認めた.
著者
河野 祐治 重藤 寛史 白石 祥理 大八木 保政 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.265-267, 2010 (Released:2010-05-06)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

症例は30歳男性である.嚥下障害,複視,ふらつきにて発症し,吃逆も出現.軽度意識混濁,左側優位の眼瞼下垂,左注視方向性眼振,両側眼輪筋と口輪筋の軽度脱力,体幹失調をみとめた.嚥下反射は著明に亢進し,嚥下困難を呈していた.脳波は間欠性に全般性に高振幅徐波が出現し,脳幹脳炎と考えられた.しかし血算,血液生化学,髄液検査,頭部MRIに異常をみとめなかった.副腎皮質ステロイド剤は吃逆,複視,眼瞼下垂を改善したが,その他の症状に無効.免疫グロブリン療法も無効であった.その後,抗ボレリア抗体陽性が判明し,抗生剤投与にてすみやかに改善した.通常の免疫療法への反応に乏しい脳幹脳炎ではボレリア感染も考慮すべきである.
著者
高下 純平 林 信太郎 山口 浩雄 立石 貴久 村井 弘之 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.667-671, 2016
被引用文献数
1

<p>症例は37歳男性.23歳よりけいれん発作を繰り返した.35歳から難聴や歩行時のふらつきが出現し当科に入院した.近親婚の家族歴があった.低身長で,腱黄色腫はなかった.mini-mental state examinationは19点,感音性難聴,断綴性発語,嚥下障害,四肢の痙縮,小脳症状を認めた.血中と脳脊髄液中の乳酸とピルビン酸が増加していた.頭部MRIで小脳半球,脳幹,内包に対称性の病変を認めた.ミトコンドリア病を疑ったが,筋生検とミトコンドリアDNA遺伝子解析に異常なかった.血清コレスタノール高値,CYP27A1遺伝子の新規遺伝子変異(c. 43_44delGGのホモ接合体)を認め,脳腱黄色腫症と診断した.</p>
著者
吉良 潤一
出版者
Societas Neurologica Japonica
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.12, pp.939-946, 2014
被引用文献数
1

日本初の独立した神経内科を九州大学に設立した黒岩義五郎先生のモットーは,Keep Pioneeringだった.私は1980年に黒岩先生のもとで多発性硬化症研究を始めた.この間,神経科学と免疫科学は驚異的な進歩を遂げ,神経系と免疫系との間の密接な関連性がみいだされ,両者を統合する神経免疫学という新しい学問領域が形成された.神経科学と免疫科学の最先端のコア部分を絶えず取り込み統合していくことで,神経難病の新たなパラダイムシフトが生まれ,未来の医療が拓かれると期待したい.他方,根治療法のない神経難病患者に対しては,1998年に全国に先駆け難病コーディネータを配置した福岡県重症神経難病ネットワークを立ち上げ,重症神経難病患者の長期・短期レスパイト入院先の確保と療養相談にあたってきた.Keep Pioneeringは,明日の医学を切り拓く研究にとどまらない.今いる難病患者へのケアにも取り組み,社会に対して責任を果たす神経内科をめざすことが望まれる.
著者
牧岡 大器 中谷 経雪 Yan Ling 鳥居 慎一 斎田 孝彦 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.553-561, 2017 (Released:2017-10-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1

日本の実臨床下でのインターフェロンβ-1a筋注用製剤の安全性と有効性検討のため,2006年11月から2010年12月までに登録された本剤投与例全例を対象に観察期間2年の使用成績調査を実施した.全国397施設より調査票が回収され,安全性は1,476例,有効性は1,441例を評価した.安全性評価の86.3%は再発寛解型多発性硬化症であった.主な副作用は発熱(19.24%),重篤な副作用は多発性硬化症の再発26件,肝機能異常10件であった.有効性検討では,年間再発率は1.07から0.29,総合障害度は3.08から2.94と改善した(各P<0.001).安全性と有効性プロファイルは既報と同様であった.
著者
吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.788-793, 2010 (Released:2011-03-28)
参考文献数
19
被引用文献数
1

視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,NMO)は,NMO-IgGの発見により多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)とは病態機序が異なる独立した疾患とする説が有力となっている.NMO-IgGが認識するaquaporin-4(AQP4)がアストロサイトの足突起に存在する水チャネル分子であることから,NMO-IgG(抗AQP4抗体)が,アストロサイトの足突起上のAQP4に結合し補体を活性化することでアストロサイト死を誘導するとされる.他方,Baló病は脱髄層と非脱髄層が交互に同心円状に分布する特徴的な病理像を示す.このような同心円状病巣は,MSやNMOでもみられることがある.私たちは,Baló病巣では脱髄巣も非脱髄巣もふくめて広汎にAQP4が脱落していることをみいだした.Baló病では,血管周囲性に抗体や補体の沈着はみられず,血清抗AQP4抗体も陰性であることから,抗AQP4抗体非依存性アストロサイトパチーが,オリゴデンドロサイトパチーを誘導して,脱髄をひきおこすとの新しい説を提唱している.同様な血管周囲性の抗体や補体の沈着をともなわないAQP4の脱落は,MSやNMOの病巣でもみられることがあり,自己抗体非依存性アストロサイトパチーは広く脱髄性疾患に共通するメカニズムである可能性が高い.
著者
上田 麻紀 立石 貴久 重藤 寛史 山崎 亮 大八木 保政 吉良 潤一
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.461-466, 2010 (Released:2010-07-29)
参考文献数
16
被引用文献数
3 12 4

症例は31歳女性である.クローン病に対してインフリキシマブ投与開始11カ月後に無菌性髄膜炎を発症し一時軽快したが,その後に体幹失調や球麻痺が出現した.髄液検査では単核球優位の細胞数増多,ミエリン塩基性蛋白とIgG indexが上昇しており血清のEpstein-Barrウイルス(EBV)抗体は既感染パターンを示し,髄液・血液PCRにてEBV-DNAを検出した.MRIにて脳幹,大脳皮質下白質,頸髄に散在性にT2高信号病変をみとめ急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と診断した.各種免疫治療に抵抗性であったが,ステロイドパルス療法を反復し症状は改善した.抗TNF-α抗体製剤の副作用による脱髄が報告されているが,本症例は抗TNF-α抗体製剤投与中のEBV再活性化によって惹起されたADEMと考えられた.