著者
松岡 慧祐
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
no.12, pp.3-16, 2013-05-18

地図は、近代的な世界や国家のイメージ、あるいは断片的でパーソナルな「道しるべ」としての役割だけでなく、流動化する「地域」のイメージを実体化するうえで重要な地域メディアとしての役割を担うようになってきている。それは行政上の「境界」にもとづいて地域を均質に区分する制度的な<地図>とは異なり、特定の主題に沿って選択された事物(地域資源など)の「分布」を一覧化することによって、かならずしも行政区画に縛られない多様な地域像をデザインする<マップ>として概念化することができる。現代社会では、このような方法で複雑性を縮減し、単層的な<地図>だけでは描きつくせない「(地域)社会」を多層的に表現しうる<マップ>の想像力が必要とされており、それによって人びとの社会認識は補完的に再構築されていくのである。そして、かつては専門化された事業や業務という意味合いの強かった地図づくりという営みは、このような<マップ>という自由度の高い表現様式を通じて民主化され、それはしばしば草の根の市民活動をとおして共同的に制作されるようになっている。こうして<マップ>は人びとの社会的な実践とむすびつくことで、オルタナティブな空間表現としてだけでなく、地域におけるコミュニケーションやネットワークを媒介するメディアとしての可能性を開き、地図の新たな社会性を浮き上がらせているのである。
著者
松岡 慧祐
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.100-113, 2008-05-24 (Released:2017-09-22)

1990年代に厚東洋輔や若林幹夫によって、地図は個人が直接的に俯瞰することのできない「社会」の全体像を可視化し、他者と共有することを可能にするメディアであるということが論じられた。だがそれ以来、こうした発想を現代社会の分析に適用するような「地図の社会学」が展開されることはなかった。現代では、グローバル化によって個人を取り巻く「社会」がますます大規模化・複雑化し、個人の生活は<ここ>ではない場所の目に見えない影響を受けやすくなっている。そこで、個人が地理的想像力を拡張し、こうした「世界社会(地球社会)」を面的・視覚的に把握するためのモデルとして、地図の役割があらためて重要になっている。また近年、コミュニティ再生が課題となっている地域社会でも、住民みずからの地理的想像力をローカルに拡張し、面的な「地域社会」を再発見するための地図がまちづくりに活用されるようになっている。だが地理的想像力は、地図の変容や電子メディアの発達などによって、危機に晒されるようにもなっている。地図は地理的想像力を拡張し、社会(学)的想像力の手がかりになりうる一方で、現代社会における地図のあり方は、地理的想像力を断片化し、「社会」を不可視化することで、個人と社会を切り離す可能性をもちはじめているのである。
著者
塚越 千尋 俵 あゆみ 松岡 慧 生方 志浦 納谷 敦夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.450-458, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
28
被引用文献数
1

脳損傷患者の社会参加を阻む要因のひとつとして社会認知の障害が注目されている。我々は社会認知障害を呈した脳損傷患者 4 名に, 社会的な手がかり (表情など) を適切に知覚する練習として「Social Cognition and Interaction Training (社会認知ならびに対人関係のトレーニング, 以下SCIT) 」を用いたグループ治療を行った。また, 対象者らは対人関係の問題を過小 (または過大) に報告する傾向があり, これに対してロールプレイと動画を用いたフィードバックを含めた Social Skills Training (以下SST) を加えた。結果, 表情認知課題の成績が概ね改善し, また社会性を測定する KiSS-18 の成績において対象者自身の結果とスタッフの結果とのずれが小さくなった。予備的研究ではあるが, 認知的側面への介入である SCIT と, 行動的側面への介入である SST を組み合わせることが社会的認知・行動の問題に対して良い影響を及ぼす可能性があると考えられた。