著者
村井 俊哉 生方 志浦
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3+4, pp.164-170, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
11

【要旨】脳損傷後には、依存性、感情コントロール低下、対人技能拙劣、固執性、引きこもりなど、社会的場面における行動に様々な問題が生じてくる。前頭葉は社会的行動と関連する重要な脳領域であるが、その損傷の直接の結果として生じる行動障害は、アパシー、脱抑制、遂行機能障害という3つの症候群として考えることが可能である。アパシーは内側前頭前皮質、脱抑制は眼窩前頭皮質、遂行機能障害は背外側前頭前皮質の損傷とそれぞれ特異的に関連しているとの主張も見られるが、実際には病変と症候の対応関係はそれほど明解ではない。個々の症例における評価と対応においては、実生活の中で問題となる社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるかを分析し、必要とされる具体的な能力の獲得を目指すことが必要である。
著者
村井 俊哉 生方 志浦 上田 敬太
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.5-9, 2019-03-31 (Released:2020-04-03)
参考文献数
11

社会的行動障害は高次脳機能障害の主要 4 症候の 1 つであり, 依存性・感情コントロール低下, 対人技能拙劣, 固執性, 引きこもりなどの多彩な症状を含む。これらの社会生活上問題となる行動や症状は, 1. 脳損傷の直接の結果として理解可能な, 前頭葉の関与する社会的行動障害 (遂行機能障害・アパシー・脱抑制) , 2. 他の認知機能障害 (せん妄や健忘症候群) を基盤とした社会的行動障害, 3. 心理社会的要因の関与の大きい社会的行動障害に分けることができると考えられる。こうした背景を理解した上で, 社会的行動障害がどのようなきっかけで生じるのか, 生活や訓練場面における文脈の調査に基づき評価を行う。リハビリテーションにおいては, 症例の生活で必要とされる具体的なスキルの獲得を目指すことが必要である。
著者
塚越 千尋 俵 あゆみ 松岡 慧 生方 志浦 納谷 敦夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.450-458, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
28
被引用文献数
1

脳損傷患者の社会参加を阻む要因のひとつとして社会認知の障害が注目されている。我々は社会認知障害を呈した脳損傷患者 4 名に, 社会的な手がかり (表情など) を適切に知覚する練習として「Social Cognition and Interaction Training (社会認知ならびに対人関係のトレーニング, 以下SCIT) 」を用いたグループ治療を行った。また, 対象者らは対人関係の問題を過小 (または過大) に報告する傾向があり, これに対してロールプレイと動画を用いたフィードバックを含めた Social Skills Training (以下SST) を加えた。結果, 表情認知課題の成績が概ね改善し, また社会性を測定する KiSS-18 の成績において対象者自身の結果とスタッフの結果とのずれが小さくなった。予備的研究ではあるが, 認知的側面への介入である SCIT と, 行動的側面への介入である SST を組み合わせることが社会的認知・行動の問題に対して良い影響を及ぼす可能性があると考えられた。
著者
福永 真哉 服部 文忠 田川 皓一 生方 志浦
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.96-101, 2010-03-31 (Released:2011-05-11)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

純粋失読の読字障害は,漢字と仮名の両方にみられるとされているが,一方が強く障害されて乖離するという報告もあり,いまだ一定の結論が出ているとは言いがたい。また,漢字と仮名のなぞり読みにおける乖離について,漢字の条件を統制し,仮名と比較した検討はこれまで行われていない。我々は,左後頭葉から脳梁にかけての損傷で,純粋失読を呈した一症例を経験した。本症例は,標準的な失語症検査において,仮名の読みが漢字の読みに比して良好であった。しかし,漢字の条件を統制して比較を行ったところ,音読,なぞり読みともに,形態が単純で,高親密度,高頻度の漢字と仮名との間では有意差を認めなかったが,形態が単純で,高親密度,高頻度の漢字と,形態が複雑で,低親密度,低頻度の漢字の間では有意差が認められた。また,形態が複雑で,低親密度,低頻度の漢字においては,なぞり読みが有効な傾向にあった。本症例において,漢字の読字過程は複雑さ,親密度,頻度によって,異なっている可能性が考えられた。