- 著者
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加藤 内藏進
松本 健吾
大谷 和男
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2017, 2017
1.はじめに<br> 東アジアの暖候期には,グローバルな規模を持つアジアモンスーンの影響を受けて,梅雨等の顕著な雨季が現れる。しかし,日本列島付近は,ユーラシア大陸の高緯度域,南アジア域,北西太平洋の熱帯・亜熱帯域,北太平洋高緯度域のようなかなり異なるアジアモンスーンサブシステム間の接点にあたり,僅か1000km程度の東西の違いで,梅雨降水の特徴等も大きく異なる(Ninomiya and Mizuno 1987,等)。例えば,西日本の梅雨前線では組織化された積乱雲の集団に伴う集中豪雨の頻出で梅雨期の総降水量は東日本に比べてかなり多い。但し,東日本側でも,西日本側に比べると大雨日(以下,50mm/day以上の日をさすことにする)の頻度は少ないものの,東日本の大雨日には,10mm/hを下回るような「普通の雨」による総降水量への寄与が大きいタイプが半数程度を占めていた(松本他 2013, 2014,それぞれ,岡山大学地球科学研究報告,Vol. 20,21。本グループの松本他による1971~2010年の解析に基づくポスターも参照)。<br> 但し,種々の広域システムの接点にあたる日本付近では,日々の変動,季節内変動,季節変化,年々変動も大きく,しかも低緯度と中高緯度のシステムの関わり方の違いにより,降水量だけでなく「降水特性」の多様性も大きい。そこで本グループは,本大会の松本他の研究を踏み台に,梅雨期から盛夏期を中心とする降水について,降水量だけでなく降水特性の多様性や,西日本と東日本との違いの詳細についても注目して,1950年以前も含めた長期解析(日本の気象官署の日降水量や天気図などに基づき)にも着手した。長期的な気候変化・気候変動だけでなく,種々の現象を把握して気候学的平均像を長期的なパラメータレンジで把握することも狙う。その際に,限られた過去の地上データや天気図等から,どの程度,日々の現象の傾向を記述する気候学に迫れるかの検討も行う。<br> なお,気象庁が日原簿をスキャンしたPDFファイルも一部の気象官署に関しては古い時期のものも気象業務支援センターを通して入手出来たので,そこに記載された1時間降水量のデータも活用法を検討したい。<br> 2.日降水量データに基づく梅雨最盛期と盛夏期の降水量や降水特性の長期解析(長崎と東京との比較を例に)<br> 本研究ではまず,西日本(特に九州)の例として長崎,東日本の例として東京における長期間の日降水量データを中心に,比較解析した。1901年~2010年における梅雨最盛期(ここでは6月15日~7月15日とした),盛夏期(8月1日~31日)について,総降水量やそれに対する50mm/day以上の日(大雨日)の降水の寄与などの解析を行なった。<br> 従来知られているように,梅雨最盛期には長崎の方が東京よりも大雨日の寄与が大きく総降水量も大きかったが,110年間でみた年々の総降水量の変動も,長崎では大雨日の寄与の変動を大きく反映していた。しかし,東京では,基本的には大雨日で積算した降水量と総降水量の増減の対応も一応みられたが,大雨日の寄与は殆ど無いのに,総降水量は110年間の平均値を上回るような年もしばしば出現する等,降水特性の変動も大きいようであった。また,総降水量に対する大雨日の降水量の寄与の割合も(以下,寄与率と呼ぶ),長崎では11年移動平均ではあまり年々の違いはなかったが,東京では数10年周期で比較的大きな変動がみられる等,降水特性の平均ばかりでなく年々の変動にも東西の違いが見られた。<br> 更に,東京の大雨日の日降水量に対する1時間降水量の寄与も,110年間で集計した(図略)。東京では,110年間でみても,梅雨最盛期の大雨日に比べて盛夏期の大雨日の方が,1時間降水量でみた強雨の寄与が大きい等の季節進行もみられた。発表では,1950年以前の特徴的な状況における1時間降水量や天気図等による事例の吟味も行なう予定である。