著者
小川 令 赤石 諭史 百束 比古
出版者
一般社団法人 日本創傷外科学会
雑誌
創傷 (ISSN:1884880X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.20-27, 2010 (Released:2010-04-01)
参考文献数
87

ケロイドや肥厚性瘢痕には,いまだ確実な治療法が存在しないため,統一された治療指針ができておらず,各施設が限られた治療経験を基に独自に工夫を重ねて治療を行っているのが現状である。しかし,世界的にはケロイドや肥厚性瘢痕の基礎研究が進み,質の高い臨床研究が増えつつある。よってこれらの報告から,質の高い臨床研究を抽出し,現時点でのケロイドや肥厚性瘢痕の治療に対するエビデンスを検討したため報告する。 診断では,時には悪性腫瘍の鑑別としてバイオプシーも考慮すべきであることが示唆された。予防では,細菌感染や異物反応,外傷などにより遷延する炎症,尋常性ざ瘡など皮膚の炎症性疾患,外力などを極力排除すべきと考えられた。肥厚性瘢痕やケロイドの治療では,手術,圧迫療法,放射線療法,凍結療法,ジェルシート,レーザー,ステロイド注射,5-フルオロウラシル(5-FU)などの単独療法,併用療法が有用であることが示唆された。また,治療後の経過観察はもちろん,治療中でも定期的に患者を診察し,再発の傾向がないか診断することは必須であると考えられた。
著者
井家 益和
出版者
一般社団法人 日本創傷外科学会
雑誌
創傷 (ISSN:1884880X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.118-123, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
15

自家培養表皮ジェイスはヒト細胞を用いた日本初の製品であり,重症熱傷の創閉鎖に使用される。2009 年に保険収載されて 5 年が経過し,これまでに全例を対象とした市販後調査によって多くの情報が蓄積されつつある。自家培養表皮の製造で非受傷部位から採皮された面積は平均 8 cm2,1 患者の使用枚数は平均 24 枚であり,採皮面積に対して 240 倍程度の面積の創面を覆うことができた。受傷から採皮までは平均 8.6 日であり,採皮時期が遅延した症例で培養工程に細菌汚染が発生したことがあった。これまでの調査では,自家培養表皮の移植前に人工真皮を用いて移植床を形成する症例が,屍体同種皮膚を用いるより多かった。最近は自家網状分層植皮と自家培養表皮を同時移植するハイブリッド法も増えている。今後は,自家培養表皮を用いた熱傷治療において,自家植皮と併用する意義を検証するとともに,人工真皮や屍体同種皮膚で再構築した移植床に対する手法を標準化する必要がある。
著者
石川 耕資 南本 俊之 一村 公人 本田 進 蕨 雄大 古川 洋志
出版者
一般社団法人 日本創傷外科学会
雑誌
創傷 (ISSN:1884880X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.22-26, 2014 (Released:2014-01-01)
参考文献数
14

壊死性筋膜炎と重症蜂窩織炎の鑑別に LRINEC (Laboratory Risk Indicator for Necrotizing Fasciitis) score の有用性が報告されている。われわれは 2005 年から 2012 年までの間に経験した壊死性筋膜炎 11 例と重症蜂窩織炎 110 例を後ろ向きに解析し,LRINEC score の有用性について検討した。壊死性筋膜炎群の LRINEC score (6~12,平均 9.2)は,重症蜂窩織炎群(0~10,平均 2.7)と比較して有意に高値であった。LRINEC score 6 以上を壊死性筋膜炎とするためのカットオフ値とした場合,感度 100%,特異度 85.5%,陽性的中率 40.7%,陰性的中率 100%であった。LRINEC score は,臨床,画像所見に加えた壊死性筋膜炎の補助的診断ツールとして有用であると考えられた。
著者
権東 容秀 松村 一 今井 龍太郎 小宮 貴子 小野 紗耶香 渡辺 克益
出版者
一般社団法人 日本創傷外科学会
雑誌
創傷 (ISSN:1884880X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.154-159, 2011 (Released:2011-10-01)
参考文献数
17

ハチミツは日本では食用品以外でのイメージは乏しいのが現状であるが,ヨーロッパやニュージーランドなどで古くから熱傷や創傷に使用され,近年さまざまな創傷被覆剤として開発も進んでいる。今回われわれはこのハチミツを通常の軟膏治療や物理的治療に抵抗した症例に使用し,wound bed preparationに有効か検討した。術後感染創で難治性となった5名と顔面新鮮熱傷の1名に対してハチミツを使用した。すべての症例でハチミツ使用後に滲出の量が減少し,不良肉芽であった創は良好な肉芽となり,細菌量が減少した。ハチミツは (1) 高浸透圧,(2) hydroxy peroxide を含む,(3) 酸性である,(4) 適度な湿潤環境を作る,等の作用により創治癒に有効であるといわれている。今回の経験でも不良肉芽を良性肉芽にかえ,滲出液をコントロールでき,細菌量も減少した。ハチミツはwound bed preparationに有効であると考える。
著者
小川 令 黄 晨昱 赤石 諭史 佐野 仁美 百束 比古
出版者
一般社団法人 日本創傷外科学会
雑誌
創傷 (ISSN:1884880X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.102-107, 2014 (Released:2014-07-01)
参考文献数
33

地球上の生命は重力を常に感受し,三次元形態を保っており,皮膚および軟部組織には自然の状態で張力が生じている。これら物理的刺激が,創傷治癒に大きな役割を担っていることが最近分かってきた。メカノバイオロジーは,物理的刺激が,細胞や組織,臓器にどのような影響を与えるかを研究する学問である。皮膚や軟部組織は体内と体外それぞれから常に物理的刺激を受けている組織であり,創傷治癒や組織再建,再生医療を実践する創傷外科医・形成外科医はメカノバイオロジーを理解しておく必要がある。物理的刺激は,細胞のメカノセンサーによって感受され,機械刺激シグナル伝達系路を通じて核内に情報が伝達される。その結果,細胞がタンパク質を産生し,種々の機能が発現される。これら物理的刺激をコントロールする医療をメカノセラピーと定義し,今後創傷外科領域において発展させるべきと考えられた。