- 著者
-
松村 幸輝
- 雑誌
- 情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.1, pp.457-475, 2008-01-15
本論文は,株式取引において適切な投資判断を行うトレーダモデルの構築を目指して,投資判断のための戦略木をテクニカル分析に基づいて設計し,進化計算手法で最適化する方法を提案した.そして,トレーダモデルが自律システムとして進化する過程を詳細に調べるとともにその有用性について検討した.その効果的な実現方法として,クラスタリングによる分類手法を用いて指標を系統的に整理し,そのセグメント化した指標の階層構造にヒューリスティックな手法である進化計算を適用した新しい戦略木生成方法を考案した.クラスタリングとしてはエントロピーおよび利得比基準によって指標を分類する2 種類の方法を用い,進化計算には遺伝的アルゴリズム(GA)と遺伝的プログラミング(GP)を用いた.これにより,本手法は,クラスタリングで指標を統計処理的に分類することによって戦略決定木を秩序立てて整然と構成することができ,また進化計算によって膨大な組合せの中から最適な終端子の組合せを見出すことを可能にするというハイブリッド型の性質を有することを特徴とする.これを用いて取引シミュレーションを実行した結果,GA 個体の次元数が多いにもかかわらず,比較的良好な運用成績を収めることができるなどの結果を得た.このことから,本提案手法は,クラスタリング手法によって探索空間を限定しロスを少なくしてシステマティックに,しかも進化計算手法による学習機能の高い生成過程を実現するという,両方の利点をあわせ持った優れた戦略木作成方法であると期待できた.また,戦略木の有効性を考察した結果,学習過程の株価トレンドなどの市場動向に敏感に影響を受けつつも,市場環境に応じた取引戦略を自律的に獲得する学習メカニズムを有することが分かった.