著者
高山 淳二 高岡 昌徳 松村 靖夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.1, pp.37-42, 2008 (Released:2008-01-11)
参考文献数
29
被引用文献数
2 4

腎不全時には,水分・電解質バランスの異常や老廃物の蓄積により生命が脅かされることから,透析療法が導入されることも少なくない.わが国の透析導入患者数は増加の一途をたどる現状であり,腎疾患治療薬の更なる開発が望まれる.著者らは,急性および慢性腎不全モデル動物を作製し,その発症・進展機構とそれらに有効な治療薬について研究している.従来から急性腎不全モデルとしては,虚血再灌流,重金属,各種薬物などによる腎機能低下モデルが用いられているが,主に著者らは腎臓の血流を一時的に遮断した後,その血流を再開通させることで発症する腎虚血再灌流障害モデルを用いている.技術的にも比較的容易であることから,安定した腎機能障害動物が得られ,実験者間の個人差も比較的少ない.費用の面でもきわめてリーズナブルである.本モデルを用いて著者らの研究室では,腎虚血再灌流障害の発症と進展に関わる種々の因子を同定するとともに,その障害をきわめて効果的に改善する薬物も見出している.一方の慢性腎不全モデルでは,腎部分切除や腎動脈分枝を結紮することにより,機能糸球体数を物理的に減少させて慢性的に腎障害を引き起こす方法が用いられることが多い.また最近では,糖尿病誘発性のモデルを用いた例も多くみられる.本稿では,誌面の都合上,急性腎不全モデルとして腎虚血再灌流障害,慢性腎不全モデルとして腎部分摘除の各モデルを取り上げ,動物の作製方法について解説する.さらに,腎機能低下の程度や進行並びに組織病変はそれぞれの病態モデルで特徴的であるため,それらがわかるように著者らの実験結果を例に挙げて記述する.
著者
森本 史郎 安部 りょう子 福原 厚子 松村 靖夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.239-249, 1978

ラットにおけるmetolazone(MET)の利尿作用についてhydrochlorothiazide(HCT)と比較検討し,次の結果を得た.1)雄性ラットにおいて,METは0.O1mg/kgの経口投与から有意な利尿作用を示し,尿中Na排泄の増加をきたした.このNa利尿作用は,投与量0.01~0・5mg/kgまではほぼ用量依存的に増強されたが,さらに1~5mg/kgに増量しても作用強度に増大が認められなかった.尿中K排泄の増加も0.01mg/kgの投与から有意に増加したが,Naに比べて軽度であり,尿中Na/Kの上昇が認められた.METによる最大利尿効果は,対照尿量と比較して約2.5倍で,HCTよりやや強い程度であったが,最小有効量からみるとHCTの20倍強力であった.2)雄性ラットにおけるMET腹腔内投与による利尿作用は,最小有効量,作用強度ともに経口投与の場合とほぼ同じで,HCT腹腔内投与群に比べてやや強いNa利尿作用を示した.最少有効量から比較すると,METはHCTより10倍強力であった.3)これらMETおよびHCTの利尿作用には,雌雄両性ラットの間で有意差が認められなかった.4)METの経口投与あるいは腹腔内投与で,電解質排泄増加に一致して滲透圧クリアランスは著明に増加した.自由水再吸収量には増加傾向が認められたが有意なものではなかった.5)METは腎血漿流量,糸球体濾過量に明らかな影響を与えず,腎尿細管に直接作用し,電解質の再吸収を抑制することにより利尿作用を発揮するものと考える.
著者
松村 靖
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.39-43, 2014 (Released:2016-02-01)
参考文献数
21

フッ素は他の元素には見られない独特の物理化学的性質を有するため,生体内での吸収や代謝に与える効果に加えて,薬理作用の発現や増強に及ぼす影響が注目されている.医薬や農薬の分野において開発される含フッ素化合物の増加には,目を見張るものがある.今やフッ素による構造修飾は,ドラッグデザインの重要な手段の1つと言えるかもしれない.しかし一方で,構造修飾の手法は芳香環部位へのフッ素原子やCF3基の導入がほとんどであり,化合物の主鎖となる骨格や脂肪族置換基にフッ素を導入した例は限られている.また,薬物が受容体に結合するときのフッ素と受容体アミノ酸残基との直接的な相互作用やフッ素の立体電子的効果については,いまだによく分かっていない.さて,読者の皆様は,研究対象の化合物の構造を眺めていて,ふと「ここにフッ素を入れたら,面白い活性や物性が出るかもしれないなあ…」などと思われたことはないだろうか.我々は1980年頃より,プロスタグランジン(PG)などの生理活性物質にフッ素を導入した誘導体を合成し,フッ素が生理活性や物性に及ぼす効果について研究を行ってきた.何かフッ素の特徴を生かしたユニークなドラッグデザインができないだろうかと考えるとき,どのようにして目指す位置に選択的にフッ素を導入するかが常に問題となり,新たな合成法の開発が鍵となることを痛感してきた.本稿では,主鎖にジフルオロメチレン(-CF2-)骨格を持つPG誘導体について,フッ素の効果に焦点を絞って,ドラッグデザインとフッ素導入法を中心に概説し,緑内障治療薬タフルプロスト(tafluprost)の誕生に至る経緯を交えて紹介したい.
著者
松村 靖夫 喜多 紗斗美 森本 史郎 秋元 健吾 古谷 真優美 岡 直美 田中 隆治
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
Biological & pharmaceutical bulletin (ISSN:09186158)
巻号頁・発行日
vol.18, no.7, pp.1016-1019, 1995-07-15
被引用文献数
18 93

We investigated the antihypertensive effect of sesamin, a lignan from sesame oil, using deoxycorticosterone acetate (DOCA)-salt hypertensive rats. The animals were unilaterally nephrectomized, and then separated into a sham-operated group (sham group) and a DOCA-salt-treated group. The latter was further separated into a normal diet group (control group) and a sesamin-containing diet group (sesamin group). The systolic blood pressure of control group progressively increased in comparison with that of sham group. This DOCA-salt-induced hypertension was markedly suppressed by feeding a sesamin-containing diet. Systolic blood pressure after 5 weeks was 130.6±1.9mmHg in the sham group, 198.1±7.3mmHg in the control group and 152.5±8.4mmHg in the sesamin group, respectively. The treatment with DOCA and salt for 5 weeks significantly increased the weight of the left ventricle plus the septum. However, this increase was signiflcantly suppressed in the sesamin group. When the degree of vascular hypertrophy of the aorta and superior mesenteric artery was histochemically evaluated, there were significant increases in wall thickness, wall area and the wall-to-lumen ratio in the control group, compared with the sham. Sesamin feeding ameliorated the development of DOCA-salt-induced vascular hypertrophy in both the aorta and mesenteric artery. These findings strongly suggest that sesamin is useful as a prophylactic treatment in the development of hypertension and cardiovascular hypertrophy.