著者
香田 啓貴 SHA John OSMANO Ismon NATHAN Sen 清野 悟 松田 一希
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.50, 2015

霊長類を含む多くの哺乳類の音声生成には、音源を生み出す声帯に加え、共鳴特性を変化させる声道と呼ばれる呼気流が通過する空間が、重要な役割を果たしている。さらに、鼻腔も気流の通り道になりえるため、音の生成に影響を及ぼすことがある。たとえば、ヒトの鼻母音とよばれる「はなごえ」のような母音の生成では、鼻腔での反共鳴が作用し、ある特定の周波数帯を弱め音声全体の周波数特性を変化させる鼻音化と呼ばれる現象が音の特徴化に重要な役割を果たしていることが知られている。今回、我々は名前の通り鼻が肥大化した霊長類であるテングザルを対象に、肥大化した鼻の音声に与える影響について、予備的な解析を試みた。とくに、鼻の肥大化の状態と音響特徴との関連性について検討した。シンガポール動物園、ロッカウィ動物園、よこはま動物園ズーラシアで飼育されていたテングザルのオスを対象とし、音声を録音し音響分析を行った。分析では、十分に鼻が肥大化した成体オスと、肥大化が途上段階で十分に発達していない若オスとの間で比較を行った。分析の結果、ヒトの鼻母音と同様な鼻音化と呼ばれる周波数特性が明瞭に観測できた。また、鼻音化は鼻の肥大化の状態に関わらず若オスでも確認できたが、鼻の大きさの程度と関係性がありそうな音響特徴は今回の音響分析の解析項目の中には表れにくかった。今後、鼻の肥大化について形態学的な定量的計測や評価を行うとともに、さまざまな音響計測を組み合わせ、鼻の肥大化の状態と音響特徴の関係性についてはさらに精査する必要があると考えられた。
著者
松田 一希
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

テングザルの食物選択においては、同様の消化機構を有するが反芻行動が観察されていない他の霊長類種と大きな違いは見られなかった。一方で、糞の粒度の比較からは、テングザルが夜間にコンスタントに反芻行動をしている可能性を示唆する有力な結果が得られた。事実、夜間により高頻度で反芻行動を行っていることが、夜間行動をビデオ録画することにより明らかになった。また、野生下のテングザルは飼育下のテングザルに比べて、夜間により頻繁に覚醒と睡眠を繰り返しており、これは野生下のサルがより高い捕食圧に曝されている結果の行動であると解釈できた。
著者
松田 一希 Chua Ying Shi Physilia John Chih Mun Sha Clauss Marcus
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.69, 2015

コロブス類は、一日の活動時間割合の半分以上を休息に費やすことが知られているが、彼らが休息するときの姿勢に着目した研究例はほとんどない。そこで演者らは、シンガポール動物園の霊長類8種(コロブス類2種:テングザル、アンゴラコロブス;他の霊長類6種:パタスモンキー、クロザル、ホエザル、クモザル、オランウータン、チンパンジー)を対象に、休息時の姿勢を調査した。また同時に、野生霊長類の休息姿勢が記されている文献調査も実施した。その結果、飼育、野生ともに、コロブス類は他の霊長類種に比べて、日中の休息時間の中で頻繁に垂直姿勢をとることが明らかとなった(飼育:73% vs. 23.2%;野生:83.0% vs. 60.9%)。これらの行動観察に加えて、演者らはシンガポール動物園においてコロブス類を対象とした消化実験も行った。この消化実験より明らかになった、コロブス類の消化管内での詳細な消化機構の特性と合わせて、なぜコロブス類が垂直姿勢を好むのかを議論する。
著者
松田 一希
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.31, pp.14-14, 2015

開催日時:2015年7月18日(土)13:00-15:30<br>会場:ホールC(国際交流ホールIII)<br><br>研究を始めるにあたり大事なことは、どういったフィールドでどのような霊長類種を研究するかを決めることである。既に多くの基礎データが蓄積された長期調査地、霊長類種の研究は、研究テーマを速やかに開始できるのが長所である一方、他の研究者とのテーマ重複を避けるために限られたデータしか集められないという短所もあるだろう。しかし、新たな調査地の開拓や、まだ研究が進んでいない霊長類種の研究を開始するには、並々ならぬ困難もありそうだ。そこで、新たなフィールド開拓、新しい霊長類種の研究に着手し、今なお第一線で研究を続けている研究者に、その魅力をについて語ってもらう。<br>調査地を開拓し、新たな霊長類種の追跡が軌道に乗っても、次に待ち受けるのはどういったデータを、どのように集めるのかという問題である。正しくデータを集めなくては、せっかくの苦労が報われないこともあるだろう。そこで、一昨年「野生動物の行動観察法」を出版した研究者に、霊長類の行動データを集める際に特に注意する点について語ってもらう。<br>行動データが集まり、分析が終わると論文執筆作業が待ち受けている。昨今のポスドク就職難を考えると、まとめたデータを素早く論文として出版していくことが重要である。また野外で研究をする研究者にとっては、この室内での執筆作業はなるべく早く終わらせ、次のフィールド調査に出かけたいものである。そこで、効率の良い論文の書き方について語ってもらう。<br>自身の研究を更に発展させるために極めて重要なことは、いかに研究費を獲得していくかであろう。そのためには、自分の調査対象、自分の調査地の魅力を客観的に評価した上で、今後の研究戦略を練り上げていく構想力が必要となる。第一線で途切れることなく資金を獲得し、新たなプロジェクトを次々と立ち上げている研究者に、資金獲得に欠かすことのできない申請書をどう書いてきたか、実例をもとに語ってもらう。<br><br>予定プログラム<br>1. 金森朝子(京大・霊長研)「新たなフィールドの開拓―野生オランウータンの調査地」<br>2. 本郷峻(京大・人類進化)「新たな霊長類種の研究開拓―マンドリル研究」<br>3. 井上英治(京大・人類進化)「その手法はだいじょうぶ?―霊長類の行動データ収集」<br>4. 松田一希(京大・霊長研)「どうやって論文をまとめるか―効率の良い書き方」<br>5. 半谷吾郎(京大・霊長研)「どうやって研究資金を獲得するか―研究戦略の練り上げ」<br><br>主催:<br>企画責任者:松田一希(京大・霊長研)<br>連絡先:ikki.matsuda@gmail.com / 0568-63-0271