著者
松田 美智子 南 彩子
出版者
天理大学
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.79-105, 2016-10

高齢者福祉・介護にかかわる人材確保の対策は,これまでハード面からの支援策中心に行われてきており,ソフト面からの支援策すなわち対人援助職者の共感疲労に伴うストレスへの対処といった側面に焦点が当てられてこなかった。そこで本研究では,感情労働の視点から福祉・介護従事者を捉え,インタビュー調査の方法を用いて,高齢者福祉施設における介護・福祉従事者の感情的疲弊(共感疲労)とそれへの対処の現状を明らかにすることを目的とした。 最終的に作成されたストーリーは,「高齢者福祉施設に従事する福祉・介護従事者は,【感情労働】によってストレスフルな状態にあり,なかでも【援助者としてのストレス】や【職業人としてのストレス】によって【共感疲労】に至る可能性を孕んでいる。しかしながら,【職場の支え】や【自己覚知による学びと自己理解】や【それぞれの対処法】を駆使しながら,サポートシステムをうまく活用することによって,支援の報酬としての【共感満足】に変化させることが可能である」というものである。今後の課題として,支援者自身がストレスから来る感情的疲弊に陥らないために,疲弊の蓄積を早めにチェックする自己診断票等のツールの開発を行うこと,また,介護・福祉現場でサポートシステムが早急に整備されるべきであることが明らかになった。