著者
中田 ゆかり 柴田 英治 角谷 寛 KADOTANI Hiroshi
出版者
厚生労働統計協会
雑誌
厚生の指標 = Journal of Health and Welfare Statistics (ISSN:04526104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1-7, 2021-09

目的:本研究の目的は,不眠症の疑いのある労働者が就寝時に「快眠音」を聞くことにより,睡眠潜時(寝つくまでの時間)が短縮するのかを検証することである。方法:研究デザインは,個々の研究対象者が「介入群(快眠音)」と「対照群(無音)」をもつランダム化比較試験とした。快眠音システムは音源内蔵スピーカー(ヤマハ社製ISX-80)とベッドマット下生体センサー(EMFIT社製EMFIT-QS)を用いた。日本企業4社の従業員1,185名を対象として事前にアテネ不眠尺度を用いてスクリーニングを行い,531名より回答を得た。不眠症の疑いのある6点以上の162名を抽出し,研究同意・データが得られた42名を対象に分析を行った。データ収集方法は,対象者が自宅に設置した快眠音システムを用いて就寝時にランダムに「快眠音」と「無音」を聞き,それぞれ平日5晩ずつ計10晩の睡眠潜時,睡眠時間,睡眠効率のデータを収集した。睡眠潜時のデータを主要評価項目とし,同様に睡眠時間および睡眠効率のデータを副次評価項目とした。分析方法は,「快眠音」と「無音」での対応のあるt検定を行った。結果:睡眠潜時,睡眠時間,睡眠効率すべての評価項目において「快眠音」と「無音」で有意な差は認められなかった。結論:「快眠音」は不眠症の疑いのある労働者に対する睡眠潜時の短縮効果は得られなかった。
著者
西條 泰明 中木 良彦 川西 康之 吉岡 英冶 伊藤 俊弘 吉田 貴彦
出版者
厚生労働統計協会
雑誌
厚生の指標 (ISSN:04526104)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.1-6, 2015-05

雑誌掲載版目的 北海道内の居住地域から,脳梗塞アルテプラーゼ静注療法の実施できる脳卒中急性期医療拠点病院への自動車アクセス時間について地理情報システム(GIS)ソフトウエアを用いて推定し,またアクセス時間を短縮することで改善するための拠点病院配置案を示すことを目的とした。方法 北海道医療計画に掲載されている61医療機関を脳卒中急性期医療拠点病院とし,平成22年国勢調査における町丁字別人口に1人以上の居住者が存在する地区ごとに,直近の拠点病院への自動車アクセス時間を推定した。二次医療圏・市町村ごとのアクセス時間は町丁字別人口居住者数の重み付けをした平均値として算出した。またアクセス時間を改善するための拠点病院配置案については,二次医療圏ごとにアクセス時間上位の二次医療圏へ,7医療機関を新たに割り当てたアクセス時間改善案の検討も行った。結果 61拠点病院へのアクセス時間について,平均60分以上となる二次医療圏が6医療圏存在し,うち90分以上は5医療圏であった。アクセス時間を改善するための拠点病院追加案については,(1)二次医療圏でアクセス時間が平均60分以上であり,医療圏内に拠点病院が設定されていない6医療圏,(2)アクセス時間60分以上に該当する人数が,約7万4千人と医療圏では2番目に多い1医療圏に1拠点病院を追加したと仮定した。以上,計68拠点病院とした場合の二次医療圏ごとのアクセス時間を計算すると,平均60分以上は1医療圏のみとなった。結論 本研究では,GISソフトウエアを用いて,特に二次医療圏ごとの拠点病院への平均アクセス時間を示した上で,北海道の現状を考えた脳卒中急性期医療拠点病院の例を示した。脳梗塞急性期治療については,二次医療圏や自治体ごとのアクセス状況を検討し,地域の現状を考えて改善案を考えていく必要があると考える。
著者
古川 和稔
出版者
厚生労働統計協会
雑誌
厚生の指標 = Journal of health and welfare statistics (ISSN:04526104)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.8-14, 2017-09

目的 介護保険法において指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム;以下,特養)は,入所者の在宅復帰を検討することと明記されている。また,地域包括ケアシステムでは,特養には入所施設としての機能だけでなく在宅で暮らす要介護者の在宅生活継続を支援するという機能も期待されている。そこで,特養に勤務する職員の在宅復帰に関する意識と,在宅復帰の可否に影響を与える要因を明らかにすることを目的に調査を実施した。方法 A県内に所在する特養のうち,事前の調査協力要請に対して承諾が得られた47施設に勤務するケアに関わる全職員を対象に無記名自記式質問紙調査を郵送法によって実施した。2015年7月,調査票2,535通を郵送した。調査内容は,回答者の基本属性,在宅復帰に関する職員の意識14項目,在宅復帰を実践する上で必要な支援20項目とした。結果 回収数は929名(回収率36.6%)であった。職種は介護職員が最も多く74.0%,次いで看護職員(11.2%)であった。「特養からの在宅復帰は可能だと思う」という設問には58.9%が肯定的回答を示した。「利用者は在宅復帰を望んでいると思う」という設問には87.9%が肯定的回答を示したが,「家族は在宅復帰を望んでいると思う」に対する肯定的回答は52.4%であり,35.5ポイントの差があった。「特養からの在宅復帰は可能だと思う」に対する回答を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,「高齢者は在宅で暮らした方が良い」「自主的に在宅復帰について学んでいる」という職員の意欲面と,「現在の職場は在宅復帰に取り組んでいる」「直属の上司は在宅復帰を意識している」という職場環境が関連する結果を示した。また,「在宅復帰を実践する上で必要な支援」では、家族支援に関する項目が有意な結果を示した。結論 特養と地域密着型特養の合計数は9,452施設で,今後も増加すると見込まれていることから,これらの施設が在宅復帰や在宅生活継続に取り組むか否かは,地域包括ケアシステムの完成に向けて非常に大きな影響を与えるであろう。「在宅復帰は可能だと思う」という職員の意識に,職員の意欲面と職場環境が関連する結果を示したことから,在宅復帰に向けた職員の意欲の高まりと,在宅復帰に取り組む職場環境の改善が相まって進めば,その相乗効果により,特養からの在宅復帰の可能性が高まることが示唆されたと考える。また,家族支援の方法と位置づけを明確にする必要があると考える。
著者
新城 正紀 川南 勝彦 簑輪 眞澄 坂田 清美 永井 正規 Shinjo Masaki Kawaminami Katsuhiko Minowa Masumi Sakata Kiyomi Nagai Masaki 沖縄県立看護大学 国立保健医療科学院 和歌山県立医科大学 埼玉医科大学
出版者
厚生労働統計協会
雑誌
厚生の指標 (ISSN:04526104)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.17-25, 2003-02
被引用文献数
1

目的:著者らは,全国レベルで難病患者個人の臨床情報,疫学・保健・福祉情報,予後情報を収集しデータベース化およびコーホート研究を行っている。今回は,1999年に実施したベースライン調査結果を基に,今後の保健福祉サービス(以下,公的サービス)の在り方について検討するため,公的サービス(ホームヘルパー,看護師,保健師)の利用状況,医療機関への受診状況,サービスおよび現在の生活への満足度,病気への受容度,今後必要とするサービスについて,疾患別および日常生活動作別に把握することを目的とした。方法:対象者は,全国の保健所のうち,本研究に調査協力可能であった35保健所管内における新規・継続の特定疾患医療受給者(1999年4月1日時点において受給資格を得ている者および,それ以降に受給資格を得る者)とした。調査項目は,基礎情報-特定疾患治療研究事業医療受給申請書,疫学・福祉情報調査,日常生活動作,公的サービスへのニーズおよびディマンド調査をもとに,公的サービス(ホームヘルパー,看護師,保健師)の利用状況,医療機関への受診状況,現在受けているサービスおよび現在の生活への満足度,今後必要とするサービス,病気への受容度とした。調査方法は,各協力保健所が調査対象とした難病患者に対して,新規・更新の申請時に調査項目に関する面接調査を行った。ただし,面接調査が不可能な場合にのみ郵送調査を行った。解析は,収集できた調査数の最も多かった6疾患(パーキンソン病,脊髄小脳変性症,筋萎縮性側索硬化症,重症筋無力症,演癌性大腸炎,全身性エリテマトーデス)について,日常生活動作別に各調査項目の実態を明らかにすることとした。結果および考察:調査データが得られたのは30保健所(北海道から沖縄まで21都道府県)であり,回収率は57.7% (=2,059人:調査実施数/3,571人:調査予定者数)であった。そのうち,痩学・福祉情報調査,公的サービスへのニーズおよびディマンド調査への協力に同意しなかった者または回答拒否者496人(24.1%)を除いた全疾患の合計は1,563人(男:687人,女:876人)であった。このうち,解析対象とした6疾患の合計は1,211人(男:543人,女:668人)であった。疾患別に公的サービスの利用割合をみると筋萎縮性側索硬化症が最も高く,ついでパーキンソン病,脊髄小脳変性症,重症筋無力症,全身性エリテマトーデス,潰癌性大腸炎の順であり,疾患の重症度に応じた公的サービスが提供されていると推察できるが,疾患ごとに公的サービスのニーズやディマンドが異なると考えられるので,詳細な分析が必要である。特に,筋萎縮性側索硬化症では往診・入院の割合も高かったことから,公的サービスおよび医療によるケアを必要とする疾患であると思われる。6疾患を全体的にみると,2割~3割の者が現在の生活に「やや不満~不満」と回答しており,大半の者が普通以上の生活を営んでいると推察できる。6疾患とも今後必要とする公的サービスがあるとの回答があり,ホームヘルパー,デイサービス,ショートステイ,訪問歯科治療,難病相談会,難病患者の集い,訪問看護,訪問診療,医療機器の貸与,緊急通報システム,住宅改造,機能回復訓練の全ての項目で何らかの公的サービスの必要が選択され,その必要性が明らかとなった。結論:公的サービスは難病患者の生活の質の向上につながると考えられるが,本当に必要な患者に必要なサービスが提供されているか,必要なサービスは何かなど,疾患や日常生活動作,QOLなどの情報をもとに,画一的にならない一人一人に適したきめ細かい公的サービスの在り方を検討する必要があることが示唆された。